【6】
パァーンッ!
「………?」
目を白黒させていた。
甲高い音と同時にパラスは右の頬を激しく痛打した。
その感触と痛みだけは感じていて、口から血が出ているのが自分でも分かった。
けれど、それだけの様だ。
どうしてそうなったのか、分からない顔だった。
じゃあ、どうしてそうなるのか?
答えは単純だ。
私が殴った。
しかし、その早さにパラスの目が追い付いていない為、何もされてない筈なのに、殴られた感触だけ残っている。
……様に見える。
「……な、なんだって、言うんだよ……うごはぁっ!」
次は腹部にアッパーを食らった感触だけを受ける。
その一撃は痛烈だが、それ以上に困るのは、きっと……何が起こっているのか、確認すら出来ない事だろう。
「お前は色々と勘違いしている」
「勘違い?」
「そうだ」
強烈なアッパーを受け、両腕で腹部を押さえつつ、少しだけ体をよろめかせていたパラスに、私は力強い笑みを作りつつ頷いた。
「まず一つ。私の得意な物は魔法ではない」
実際、私の魔法的なレベルは精々SS+程度。
それだけでは、ランクレジェンドと言えるLランクに到達する事は出来ない。
むしろ、苦手分野なくらいだ。
「そして、二つ目」
そこまで私は言った時、少しだけ意地悪かなと思いつつ、ニィ……と好戦的に微笑んだ。
「私は、ここに入学してから一回だって、本気で戦った事はない」
「……っ!」
愕然となるパラス。
別に驚く様な事ではないだろう?
少なくとも、今の余裕ぶった態度が、本気で相手している様に見えるか?
「………くそっ!」
苦々しい顔になり、気合いを入れ直すパラス。
直後、補助魔法を展開させる。
上位攻撃力上昇魔法レベル60
上位防御力上昇魔法レベル60
上位身体速度上昇魔法レベル60
一気にその能力を上昇させて来た。
同時に勢い良く私に向かって拳をぶつけて来る。
ピシィッ!
………お?
私の展開する透明な防御壁にヒビが入った。
ちょっと、驚いた。
この透明な壁は、下手な魔王級のモンスターですら、びくともしない代物なのだ。
例えば、こないだの魔王ゴブリンの攻撃だって、その気になればこの壁だけで完封出来た。
「うぉらぁっ!」
手応えを感じたのか?
そこで、ちょっと笑みを浮かべたパラスは、そのまま二発目を打ち降ろす。
ボコォッ!
透明だから分かりにくいが、私の防御壁に風穴が空いた。
その瞬間、中にいた私に直接物理攻撃がやって来る。
いやはや、参ったね。
パシッッッ!
防御壁を貫通して来た右手拳を、私はそのまま左手でキャッチして握って見せた。
「なにっ!」
「凄いな、パラス。予想以上だ」
「……その余裕、いつまでもつかな?」
パラスは好戦的に笑った。
余裕がいつまでもつか……ねぇ。
愚問だな。
「安心しろ。私の顔はずっと変わらない」
「ほざけっ!」
再び連打しようとする。
……が、私に握られた右手が離れない。
当然、片方の左手で攻撃して来るが、その手もすぐにキャッチされてしまう。
そして。
「こう見えて、私は前衛パワータイプの冒険者だぞ?」
メキメキィッ………
「ぐ、ぉぉおぉ………」
拳を私に握りつぶされ、悲痛に歪むパラス。
………うむぅ。
まぁ、そうなるか。
「私に肉弾戦を挑むのは十年早かったな」
「………くっ」
手を離してやると、パラスは両手をダランとだらしなくプラプラさせる事しか出来なかった。
多分、手に力が入らないのだろう。
下手をすると、拳の骨が折れているかも知れないな。
「もう一度言う。私は本気を出してなどいない。この意味は分かるか?」
「………」
「殺す気はない。さっさと降参しろ」
段々、弱い者いじめになりつつあるしなぁ………。
あたしゃ嫌いなんだよ。
相手が格段下なのに、なぶる様に打ちのめすのは、だ。
「返事は?」
「……分かった、降参だ」
最後は気さくに笑った。
最終戦が終了し、私はパラスに上位治療を掛けて見せる。
「……こんな事まで出来るのか」
「まぁな」
驚きと言うより、呆れにも近い顔をしたパラスがいた。
まぁ、ただの生徒だと思ってるパラスからすれば、確かにそれは異常なのだろう。
「これが、世界冒険者協会・会長の力なんだな」
………おひ。
さらっと、禁忌を言って来たし!




