事件の終わり【9】
ここから先は、司法の結果次第となる為……私はリーナの力になってやれる事は少ないかも知れない。
だから……せめて。
そう……せめて。
リーナに酌量の余地が認められ、厳罰を免れて行く事を切に願いたい。
その後、西側諸国から密入国していた暗殺者達も全て御用となり、今回の事件は概ね一通り解決して行く方向に向かって行くのだった。
他方、中央本部に暗躍していただろう西側諸国の件も、一応の終止符を打つ事になって行く。
ここに関してはバアルが積極的に調べてくれた模様だ。
また、中央本部にいる私の右腕的な存在……サブリ・ポンテンも、今回の件で一役買ってくれた模様でもある。
……若干断線してしまうが、サブリ・ポンテンの名前は今回始めて出て来たので、軽く紹介して置こうか。
ともすれば、私自身も忘れがちになりそうで怖い話なのではあるが、私は世界冒険者協会の頂点に立つ会長をしている。
そんな私の右腕となり、粉骨砕身の思いで日夜頑張ってくれているのが、このサブリ・ポンテンだ。
肩書きは、世界冒険者協会・代表理事。
普通に理事長でも良い気がするのだが、それは私がいる関係もあり……ややこしい事になるから、敢えて代表理事と言う名称にしているらしい。
理事長も代表理事も同じ意味だと思うんだがな……?
ともかく、肩書きを見て貰うと分かる通り、協会本部にある理事会を纏めている存在だ。
また、世界冒険者協会の副会長と言う顔も持っている。
冒険者としての能力と言うか……腕力的な物、魔導力的な能力こそないが、持ち前のカリスマ性が高く評価され、私以上に多数の人望を持つ、冒険者協会の重鎮的な存在。
卓越した指導力と牽引力を持つ為、会長の私よりも人気がある存在だ。
正直、ポンテンが会長をやった方が良いと思うのだが……そう思うのは私だけではあるまい。
実際、私は幾度となく中央本部の上層部に嫌味を言われたり、場合によっては失脚寸前の憂き目を見る羽目になったりもしたが……それらをことごとく打破して来たのが、このポンテンだった。
私の何処を気に入ったのか? 全く以て七不思議に近い謎ではあるのだが、ビックリする程に私の顔を立て……そして、献身的に尽くしてくれる。
余談として、ボチボチ四十代も半ばになると言うのに、未だ独身と言う自称ナイスミドルのオッサンだ。
一度、本気で求婚された事があったが、ソッコーで断った。
……いや、だってだ?
確か、求婚されたのが十年近く前だったんだが……その時、私は何歳だって言う話だよ?
…………えぇと。
まぁ、私の実年齢はともかくだ?
何にせよ、普段は結構ジョークを飛ばす明るいオッサンなのだが、経験豊富かつ冷徹な人物でもあり、誰よりも頼りになる存在だ。
今回は、バアル経由でポンテンが動き、中央本部の大掃除を行ったらしい。
余談が先行して申し訳ないが……話によると、バアルがこの学園の学園長をする事になったのも、ポンテンが色々とやった事が原因なんだとか?
バアル曰く『本当は学生として入学しようとポンテン代表理事に頼んだら、手違いで学園長に任命されてしまった』らしく、見た目にそぐわない形で学園長をする羽目になったとか?
だったら、外見もそれらしくすれば良い物を。
大悪魔でもあるバアルなら、今の少年染みた格好から大人の人間に姿を変える事など造作もない様な気がする。
ただ、バアルが言うのには『この格好には自分なりのポリシーがあるので』らしく、少年っぽい外見を変えるつもりはないらしい。
これにはアシュアも少し不平がある模様だが、敢えて聞き流すだけにしておいた。
きっと、聞いても疲れるだけだと思ったからだ。
……と、この様に。
一体、バアルがどんな方法からポンテンと友好的な関係を持つ事になって行くのか? その経緯は全くの不明ではあるのだが、この様な形から中央本部に暗躍していたであろう反乱分子をしっかりと除去して行く事に成功するのだった。
大団円は言い過ぎかも知れないが、実に丸く収まって良かったと思う。
西側諸国の反乱分子と表現したが、別に西側が全て悪いと言う訳ではない。
こんな存在は、ほんの一握りだ。
今後は、西側諸国とも綿密に話し合い、より良い明日を紡ぎ出せる様に、しっかりと良好な関係を築き上げて行きたい所だ。
今は、人間同士で争い合っている場合ではないのだから。
……そう。
現状、今はそれ所ではない。
伝承の道化師が復活したと言う事は、数百年に一度の周期で発生する動乱期の到来がすぐそこまで来ている事を意味する。
きっと、ヤツにとってはただの暇潰し。
本当に腹立たしい趣味だと思う。
けれど、歴史は繰り返される。
このまま行けば、この世界は再び伝承の道化師の壮大な暇潰しによって、大きな動乱の時期が到来するのだろう。




