事件の終わり【6】
リーナと言う名前が付けられたのは、この辺りの話らしい。
その前までは、実験ナンバー的な名前があてがわれ、名前と言う名前も無かったそうだ。
その後、リーナはショウに人間らしい住居を与えられ、ちゃんと学校等の様な教育機関にも通ったとの事。
ここまで聞くと、もはやササキは義父の様な存在だったんじゃないかと思えてならない。
そんなある日の事だった。
彼女はある事実を知ってしまう。
完璧な邪神を産み出す研究成果が、それだった。
研究成果だけを見るのなら、別にリーナが驚く程の事ではない。
そもそも、邪神を研究している研究員である事は、当の昔から知っていた事だし、自分だってその邪神のプロトタイプ的な存在であったからだ。
けれど、彼女が知った衝撃の事実はそうではなかったのだ。
リーナが人間として生きていた『理由』がそこに隠されていたからだ。
プロトタイプとは言え、邪神の構造を持つリーナには、やはり普通の人間とは色々と異なる部分が存在していた。
つまるに、見た目は人間であっても、邪神は邪神なのだ。
これが、ショウ・ササキの狙いだったのだ。
リーナを人間として育て……人間としての経験を与えた後……その記憶を元に新しい邪神を造る『実験』が、まさに現状のソレだったのである。
一体、ササキは何を考えて、そんなおかしな実験をしようとしたのだろう?
感情や精神的な物を加える必要性が邪神にはあったと言うのだろうか?
もし、そうであるのなら、リーナをそのまま使えば良かったのではないだろうか?
こんな事を言ったら、それはそれで非情極まる非人道的な事柄ではあるんだが……敢えて新しい邪神へと移植する為にやらせると言う、実に遠回しなやり方が解せない。
リーナ曰く『私に真実を伝える事で、どの程度の絶望を受けるかも実験の対象だった』らしい。
もし、これがそのままだったとすれば……ササキは超最低なド外道と言う事になるな。
今ある人間的な生活も……当たり前の様にあった日常も……全部が全部、かつてあった拷問染みた実験と大差ない代物であった事実を知ったリーナは失意のドン底に叩き落とされた。
そんな、失意の真っ只中にあったリーナに新たな転換期と出会いが生まれる。
アインの存在がそれだ。
正直、ここでアインの名前が出て来るとは思わなかった。
それだけに、私としては面食らう形になってしまうのだが……話によるとアインは冒険者協会の中央本部からやって来た諜報員だったそうだ。
二人の出会いは偶然。
……と、リーナは言っていたが、恐らくは違うな。
諜報員として西側諸国に行っていたのなら、確実に意図的だろう。
そして、出会ったタイミングにしてもそうだ。
失意のドン底と言うタイミングを見計らって、アインはリーナと接触を計ったに違いないのだ。
そう考えると、地味にあざとい真似をするなぁ……と、アインにツッコミの一つも入れてやりたい所ではあるんだが……しかし、仕事で仕方なくやっている部分もあるんだろうから、敢えてそれ以上の言及はしないで置いてやろう。
……ふ!
私は理解力が高山より高く、心が海よりも広い女なのだ!
アインと出会ったリーナは、その後……邪神を降誕させる事の危険性をリーナに訴えた。
そして、しばらくは彼女と一緒に生活をし……まぁ、つまりは長い時間を掛けて説得したらしい。
……う、うむ。
まぁ、ほら? 説得に時間が掛かる事はしょうがないじゃないか?
べ、別に嫉妬とか羨ましいなぁ……とか、そんな事は思ってないからなっ!?
長い時間を掛けて説得と表現したが……期間にして一週間程度との事だ。
リーナ的に言うのなら、もう少しアインとの生活を楽しみたいと思った所はあったと言う。
……むぅ。
アインめ……。
こんな所で浮気……あ、いや。
うん、思えば、私はアインと付き合った事がなかったな!
……くそ。
でも、やっぱり少し腹立たしいな。
…………。
ま、まぁ……そこはさておきだ。
新しい邪神の誕生は、もう間近に迫っていた。
そこで……アインとリーナの二人は、この邪神誕生を阻止して行く事になるのだ。
この結果は……言う必要はないよな?
アインは、邪神の核となる水晶を入手し、そのまま持ち去った。
他方、リーナもアインと一緒に中央大陸へとやって来た訳となる。
その後のアインは、冒険者アカデミーの先生として働く事になって行き……まぁ、このお話にある二編目へと繋がって行く事になる訳だ。
この時点で、リーナは既にアインと共に学園の教師として就職していたんだそうだ。




