事件の終わり【4】
「まぁ、この際……どんな理由から、お前が逃げなかったのか何て、私にとっては些末な事だ……それより、聞きたい事が山程あるんだが? 教えてくれるな?」
「…………」
私の問い掛けに、リーナは無言だった。
まるで、黙秘権と言う物を行使しているかの様な振る舞いにも見える。
「……ほむぅ」
そこで、みかんが眉をしかめた。
直後、リーナがびくぅっ! と、まるで驚いた猫の様な反応をして見せる。
…………。
明らかにみかんを、何か得体の知れない怪物でも見ているかの様な目をしていた。
本当に、お前はリーナに何をやったんだ?
良くは分からないが、リーナを心の底から震え上がらせる恐怖を植え付けていた事だけは、私なりに理解する事が出来たんだが……それにしても、ここまであからさまに恐怖で顔を引き釣らせているとなると……かなりの事をしたとしか思えないんだが……?
恐怖で顔を引き釣ったまま、ガクブル状態になっていたリーナを前に、みかんは渋い顔になって言う。
「残念です……素直に言えば、衛兵に捕まって懲役刑を喰らう程度の処罰で済ませて上げようと思ったんですがねぇ」
みかんは嘆息する。
刹那。
「い、いいいいっ! 言います! 言いますから! せめて、人間として真っ当に死なせて下さいっ!」
がむしゃらにおかしな台詞を叫んでは、何処か狂気に近い精神状態で懇願して来たリーナがいた。
……うむ。
やっぱりみかんは、エグイ。
具体的にどんな事をしようとしていたのかは、この台詞だけでは分からない部分も多いんだけど……しかしながら、総体的に見てかなりエグイ結果になる事をしようとしていた事だけは分かった。
みかんの感性は、何てか……極端なんだよなぁ。
相手が良い人間だと思えば、それこそ全力で助けるけど、逆に悪いと判断した人間に対しては超高圧的だったりもする。
要は、自分にとって敵対する相手なら、笑って相手を殺せる訳で……。
人間であって人間じゃないと言うか……命の重みを知りつつ、そうじゃない時もあるんだよな。
だからと言う訳ではないが、みかんの場合脅しが脅しではない場合が圧倒的だった。
良く、比喩的に『お前、殺してやるよ!』とか言うだろ?
みかんは、違うんだ。
それを発言する時は、比喩でも何でもない。
それでもまだ『殺してやる』と、言葉で言われているだけならまだ可愛い方で、場合によってはこの台詞よりも先に殺している。
もうメチャクチャだな……。
まぁ、そんなヤツだけに、みかんがどんな事をして、今のリーナみたいになってしまったのかは……聞かないで置く。
素直に話してくれたら、私はそれ以上の事を望まないからな。
「じゃあ、話してくれよ……内容次第では、私も協力してやるからさ?」
「……っ!?」
笑みで答えた私に、リーナは思いきり引いていた。
「……どうした?」
「何を企んでいるの?」
明らかな懐疑の目で私を見ていた。
おいおい……。
「みかんに何をされたのかは知らないけど……私は、お前が考えている様な人間ではない事だけは確かだとは確信しているつもりだ」
「……そ、それなら……良いけど……」
リーナは、未だ腑に落ちない……と言うか、確実に疑って掛かる様な目をしつつ……それでも一応の相づちを打って来る。
「そこは本当かもです。場合によってはリダが衛兵に頼んで減刑とかしてくれるかもです」
「ほ、本当っ!?」
リーナは心からの驚きと笑みを作っていた。
みかんさんの言葉はちゃんと信じるのは、如何な物なんでしょうねぇ……?
若干の苛立ちを隠せない私がいたが……話が地味に進まないので、敢えて何も言わない事にした。
「……じゃあ、話をさせて貰うわ」
少しばかり落ち着きを取り戻したリーナは、そこから話を始めて言った。
○◎●◎○
ここから先は、リーナの体験談となる。
一応、リーナから聞いた話を軽くまとめる感じだな。
会話として聞いている内容を、少しモノローグ調に置き換えて話そうと思う。
まず、最初にリーナの口から放たれた衝撃の事実。
それは……人間ではない事だった。
……そう。
これには私も驚かされたが……話によると、リーナは研究所が作り出した人工邪神のプロトタイプに当たるらしい。
つまり、完全な人間の姿をしているが、実際には人造人間ですらなく……邪神を研究した末に生まれた、人工邪神の一人でもあった。
邪神……つまり、宇宙意思の一種でもある伝承の道化師を研究に研究を重ねた結果、生まれた人工生命体。
それが、リーナだった模様だ。




