事件の終わり【1】
水晶の崩壊が、邪神の崩壊を意味していたらしい。
イリの超炎熱爆発魔法によって吹き飛ばされてしまった邪神の肉片は、核でもある水晶が弾けて消えた事で、完全にその修復能力を無くしていた。
ボトボトッ! と、雨の様に落ちて来る肉の塊は……まぁ、正直な所、見ていて余り良い気分にはならなかったんだが。
しかしながら、これで邪神が再び甦る事はなさそうだった。
……なら、これはこれでヨシとして置くべきだろう。
「ようやく終わったな……」
そうと答えたのはイリだ。
水晶が破壊されて間も無く……イリは私の近くまで飛んで来て、にこやかな笑みを柔和に浮かべながら口を開いて来た。
私もイリへと笑みを返す。
そして、頷いた。
「……ああ、やっと終わったよ」
正直、言葉通りだと思える。
私の精神力は、もう既に限界を越え……良く、意識を失わないでいられる物だと、まるで他人事の様に思えてしまう程だ。
フラフラながらも、今回は気絶しなかっただけ、まだマシなのかな……って思う。
いつぞや……闘技場でアインと戦った時は、そのまんま入院だったからな?
浮遊魔法を使って地面まで降りた時は、思わず尻餅を付いてしまう私がいた。
「……おい、大丈夫か?」
「……だいじょうばない」
「それは、言葉としてどうなんだよ?」
私の言葉に、イリはちょっとだけ苦笑して見せた。
「お~い! イリ、リダ~? 大丈夫ですか~?」
そこで、みかんが文字通り飛んで来る。
私は、尻餅を付きながらも、笑みでみかんに手を振って見せた。
私なりの『何とか生きてるよ』と言うサインでもあった。
「いや~。一時はどうなるかと思ったけど……どうにかなったよ」
「そうですねぇ。魔法もしっかり成功したみたいですし~」
安堵の息もそこそこの状態で言った私に、みかんは嬉々として答えて言った。
ああ、そう言えば……何か、指輪に魔法を掛けていたよな?
「結局、あの魔法って、どんな効果があったんだ?」
「およ?……ああ、あれは救済効果として、発動する事で別の存在へと生まれ変わる、転生の効果があったのですよ~?」
「転生効果?」
そういえば、発動時に『転生の息吹』とか、みかんが言ってた様な気がする。
すると……あれか?
「邪神は、別の何かに転生するって事か?」
「ズバリそ~なるのですよ~」
私の言葉に、みかんは何回もコクコクと頷いた。
そこから、意味不明なドヤ顔を見せて、私とイリに力説して行く。
「この魔法は、一部の特殊な能力を持つ存在が、宇宙原理からエネルギーを引き出して、細胞レベルで全く異なる存在へと強引に転換してしまう魔法なのです」
「……聞くだけで危険そうな匂いがプンプンするんだが……?」
胸まで張って言っていたみかんに、私は怪訝な表情になってぼやきを入れていた。
他方のイリも余り良い顔をしていない。
「要は、まだ生きている相手に次の転生を強制で行う魔法って事だよな?……それ」
「おふぅ……ま、まぁ……そうとも言うです」
ツッコミ半分に言ったイリに、みかんはちょっとだけ焦った顔になって返答してみせる。
二人の会話を聞いて、私も呆れ眼になってしまった。
確実に危険な魔法である事は確かだな……とは思った。
反面、みかんがこの魔法を選んだ理由だけは理解する事が出来たのだ。
「邪神を造った相手にこそ、相応の悪意があったとしても……生まれて来た邪神その物には、何の罪もないからな」
「そうそう! そうなのです! みかんにとっても、お仲間に近い存在でしたし? 何とかして助けたかったんですよ~」
特にフォローを入れるつもりではなかったんだが、私なりにみかんを考慮した台詞を口にすると、それに呼応する形でみかんが素早く捲し立てて来た。
「……まぁ、別に構いはしないんだけどな」
イリは、諦め加減に吐き出した。
多分、イリが求めている話の論点はソコではないのかも知れない。
ハッキリ言うのなら、倫理に掛ける魔法である事には代わりないからだ。
使い方次第では、即死魔法よりも残虐な魔法に成り得る。
相手の肉体を滅ぼした上に、力のない存在へと転生させてしまう事だって可能だからだ。
これが可能と言う事は……以後も、延々と殺されては転生、殺されては転生の繰り返しをループさせる可能性だってある。
そう考えるのなら、この魔法は極めて危険な魔法とも言える。
……しかし、使い方こそ間違えなければ、きっと素晴らしい魔法でもあるのだろう。
少なからず、生まれて来たばかりだと言うのに……人類の敵になりかねないと言う理由だけで滅ぼされる邪神を救う事が出来たのだから。




