戦いの始まり【8】
ズゴゴゴゴゴッッッ!
直後、物凄い地鳴りと同時に、教室内が尋常じゃない勢いで揺れた。
「な、ななななぁっ!」
私は、思わずヘンテコな台詞を口にしてしまう!
いや、てか? 真面目になんだぁっ!?
精神が無秩序に混乱してしまう中、
「う~っっ!」
真剣な表情になっていたシズが、直後に教室の窓から文字通り飛んで行った。
常人なら自殺行為も良い所だが、相手は剣聖なので問題はない。
むしろ、問題があるとするのなら……外だ。
突発的に揺れた教室……その素因は、間違いなく外で起こっている出来事にあるのだから。
思った私は、即座に外の光景へと目を向ける。
「……っ!」
蒼白になった。
そこには……水晶が予告していた映像通りの化物が、校庭のど真ん中に立っていたのだ。
やっぱり……あの水晶が見せた化物は邪神だったのか。
何となくそうだとは思っていたし……相手が何であろうと、映像の通りであるのなら学園に尋常ではない被害が…………ん?
ここに来て、私はハッ! と気付いた。
水晶が私に見せてくれた映像の中では、多数の生徒が化物との戦闘でとばっちりを受け、大ケガを負っていた。
それら一部始終を見ていたが故に、私は苦い顔になっていたのだ。
しかし、現状はどうだろう?
少なからず、今の学園には生徒が全く見当たらない。
「寮の生徒達も、今日だけ近所のホテルに避難させました……全て、学園長が予め手筈を取っておりました」
笑みを作りながら答えたのはアシュアだった。
なるほど……バアルがやったのか。
素晴らしい手腕だな!
「ああ、後……学園長からの伝言を承っております『未来は自分で造る物ですよ』との事です」
アシュアは言ってから、ニコッ……と優しく私に微笑んだ。
私も笑みを返して見せる。
「その伝言、確かに聞いたぞ? 悪いが後でこう返事してくれ『全くその通りだ!』とな」
答えた私は、直後にアシュアへとグッジョブして見せた。
「リダ~? これは、悠長な事をしてる場合じゃないかもです~」
程なくして、みかんが私の前へとやって来て、真剣な眼差しのまま口を動かして来る。
確かにその様だ……。
外を見る限り、最悪の事態に陥っている。
しかし、素早く外に出て行ったシズと……ん?
「あれは……イリか?」
私はちょっとだけ驚いた顔になって言う。
校庭にいたのは……間違いない、イリだ。
「アイツめ……」
私は苦々しい顔になって独りごちた。
どうやら……イリはこうなる事を予測して、予め校庭でスタンパイしてた模様だ。
コイツの主目的は邪神降誕を阻止する事じゃなかったのか?
「ほむぅ……あれです。イリが何を考えてるのか、本当の所はみかんにも分かんないですが」
そこでみかんが私へと言って来る。
ここまで答えると、神妙な面持ちに変えて来て……そして言った。
「面倒だから、ここで邪神ごと倒しちゃえ! とか、思ってたんじゃ……?」
「うぁ……イリなら本気で考えそうだ……」
私はげんなりした顔になってぼやいた。
理由は簡素な物だった。
仮に阻止したとしても?……結局の所、誕生する危険性が完全になくなったと言う訳ではない。
強いて言うのなら、一時的に危機が去っただけ。
それなら、いっそ……根本的な部分を消し去れば良い。
「…………はぁ」
私は重い溜め息を吐いた。
言いたい事は分かるし、抜本的な解決策としても、決して間違ってはいない。
……だが、余りにも無謀過ぎるっ!
「これで負けたら、私はイリを一生恨むからな……」
くそったれめぇ……っ!
私は、何だかんだで半ば意図的に邪神を降誕させたのだろうイリを憎々しい目で見据えていた。
「いや……だから、リダ~? 良い加減、イリの所に行かないと……多分、シズさんも待ってますよ~?」
言うなり、みかんは校庭の端っ子辺りを陣取っていたシズを指差す。
剣聖の護りを出そうとしている見たいだが……現状だと、イリのフォローに行く可能性を考え、敢えて発動させていない様に見えた。
そこで、シズがどうしてここにやって来たのか? その理由が分かった。
そうか……剣聖の護りか。
剣聖スキルの奥義でもある『剣聖の護り』は、歴代剣聖の中でも、シズがトップクラスの能力を誇る、究極の防御技だ。
発動すれば、あらゆる物理・魔法攻撃が全てシャットアウトされる。
その鉄壁性も去る事ながら、範囲もかなり広く……この学園程度なら、敷地の全てを剣聖の護りで覆い尽くす事など容易い。
しかし、その反面で……発動中はシズ本人の行動が大きく制限されてしまう為、戦闘に参加する事は出来ない。
よって、今のシズは剣聖の護りを発動させたいけれど、発動出来ずに待機している状態だったのだ。
「早く行ってあげてくだしゃ~」
……クソッ!
「分かったよっ!……だけど、みかん! そこの厚化粧女をキッチリしっかり見張っておけよ? 後で超強烈なお灸を据えてやるんだからなっ!」
吐き捨てる様に叫んだ私は、そこから校庭へとアイキャンフライ状態で飛んで行き、校庭にいる巨大な化物の眼前へと降り立って行くのだった。




