戦いの始まり【6】
何故だろう?
凄く不自然な台詞だった。
何でか?
だって、私にイリは言ってるんだ。
頼んだぞ!
……と。
どうして、私は『頼まれている』のだろう?
少なくとも、私は普段の生活に戻る……それだけの筈なのに。
若干の違和感を受ける私がいた。
……しかし、違和感こそ抱く物の、悩む程なのかと言われたのなら、やっぱりそれは違うとしか言えない。
「ああ、任しておけ」
よって私は、笑みを色濃く作りながらも、イリへとそう答えていた。
これは、私なりの予測ではあるんだが……イリのヤツは、何らかの策を練っているんじゃないかと思う。
ただ、その策を……今の私に言う事が出来ないんじゃないかと思えた。
そして、その策を実行するに当たって、私が復学する事が条件の一つなんじゃないかと思われる。
どうしてそうなるのかは、分からないが……大丈夫だと思う。
そこに然したる確信や根拠を持った訳ではない……ないが、それでも私は思ったのだ。
私はイリを信じて見よう!
思った私は、イリの退院祝いがてら、近くの軽食屋へと向かいそれなりに楽しい時間を送った後……学園へと戻って行くのだった。
■○▲○■
翌朝。
私は制服に袖を通して教室へと向かう。
部屋が隣と言う事もあって、今日から通常に戻るのだろうルミやルゥの二人と一緒に、軽く会話しながらやって来たのだが……。
ガラララッ!
……と、教室の引き戸を開けた先には……誰も居なかった。
「……は?」
少し早く来すぎたかな……?
そんな事を考え、誰もいない教室へと入って行く。
「そう言えば、ここに来る途中……誰とも会わなかったね」
自分の席に座る私がいる中、ルミは不思議そうな顔になって私へと言った。
……確かに誰も居なかったな。
「確かにそうだな……」
私の眉間に皺が寄った。
……おかしい。
まるで、今日が休みであるかの様な静けさだ。
「もしかして、今日って……創立記念日とかだった?」
ルミは近くにいたルゥへと軽く尋ねると、すぐに顔を横に振るルゥがいた。
……どうでも良いが、一年間この学園で勉強していたルミが、入学して間もないルゥに聞くのもどうなんだよ……?
挙げ句、ルゥの方が詳しいと来た。
私はなんとも言えない気持ちで一杯になっていたけど……敢えて何も言わないでいた。
正直、ルゥの方が色々としっかりしている事は、今更だし……何より、今はそんな素朴な事よりも、
「やっぱり、今日は臨時で休みにでもなってるのかな?」
ここに誰もいない事の方が、私としては気になった。
答え、私は周囲を見回す。
……何度見ても結果は同じなんだが……やっぱり周囲には誰も生徒は居なかった。
そんな中、
「そう言えばリダさん。水晶は今も持っているんですか?」
ルゥが何の気なしに私へと聞いて来る。
私は普通に頷いて見せてから、ポケットに入っていた水晶を取り出して見せる。
「ああ、取り敢えず持っては来ているな」
答え、私はルゥに水晶を見せた。
「これが、そうなんですね」
水晶を見たルゥは、少し瞳を輝かせて答えた。
そんなに興味が湧く様な代物なんだろうか?
「本当に凄いね……何て言うか、凄い魔導力と技術を感じるよ」
程なくして、ルミも驚いた顔になって水晶を見つめていた。
ああ……そうなるのか。
ルミもルゥの魔導大国ニイガの人間だ。
そうなると、やっぱり私が持っている水晶には、それなりの興味を惹かれる物があるのかも知れない。
「触っても良いですか?」
「ああ、構わないぞ?」
キラキラおめめで言って来たルゥに、私は頷いてから水晶を手渡した。
その瞬間。
「……ふふ。なるほど……なるほど」
ルゥの様子が変わった。
……何だ?
「おい、ルゥ……お前、何か変だぞ?」
ちょっとだけ雰囲気が変わったルゥを見て、私はやや苦笑いにも似た表情を作って口を動かして行くと、
「そりゃそうだよ……本物のルゥさんは、今頃……病院の用務員倉庫辺りでオネンネしてるでしょうからねぇ……」
超絶不気味な笑みを色濃く作るルゥの姿があった。
「……っ!」
私とルミの顔から、血の気がさぁぁぁっ! っと引いた!
「あ、あんたは誰っ!?」
刹那、ルミは明らかな敵意を見せてルゥに叫んでみせる。
他方の私は、心の中で舌打ち混じりだ。
くそ……相手が擬態をして来る事は予測出来た事だって言うのにっ!
無駄にルミを疑ってしまった自分に恥じた事で……結果、適度な懐疑の念まで欠落していた模様だ!




