【4】
しかし、武器は完全になくなってしまった。
剣士が剣をなくしてしまった時の攻撃は、当然ながら雲泥の差が生まれる。
これはフラウの勝ちかな?
「おぉぉぉらっ!」
………まじか。
気合いそのままにパラスはフラウに突撃を掛けて来た。
当然、ただの自殺行為でしかない。
フラウには炎神の盾があるのだ。
武器も持たずにただ突っ込んで行くだけなら、純粋に盾の炎に燃やされ、灰になるだけだ。
流石に無謀過ぎる。
そう思っていた時だ。
気合いそのままに突っ込んだパラスは、右拳でフラウの盾を叩き割って見せた。
パリィィィィンッッ!
まるで、ガラスを割ったかの様な音と同時に、炎は細かいプリズムとなり、文字通り粉々になって消え去る。
「くっ!」
直後、フラウも驚きつつ、その場から素早く退いて、両腕を掲げた。
あれは、あれか?
炎神槍か?
前に私にも見せた炎神の力を借りる事で放つ紋様魔法の応用だ。
しかし、前回とは色々と違った。
まず、紋様魔法ではなかった。
紋様魔法は、基本的に紋様を描く印を結ぶ必要があり、そこに若干の時間を必要とした。
一瞬の攻防が命取りとなる接戦ではこのわずかな時間が勝敗を決してしまう事がある。
だが、今回は紋様ではなく、普通に魔導式を組み立てていた。
しかも、早い!
一瞬で魔法が出来上がり、掲げた両手に魔力が結集される。
その瞬間、パラスの頭上に三本の巨大槍が、
「なにっ!」
ドンドンドンッ!
右斜め、左斜め、最後は真上の三方向から、巨大槍がパラスを襲った。
「うぉわぁぁっ!」
パラスは避けようとするも、最後の槍の直撃を喰らう。
鮮血が吹き出し、吹き出た鮮血が炎に変わった。
え、えげつな!
前よりも威力も高くなっていた上に一本ではなく三本に増え、発動速度は比べるまでもなく早かった。
「早く、降参して! パラス様!」
口から血を吹き出すパラスに、フラウは少し焦りながら叫ぶ。
てか、パラス様って……いや、良いんだけどさ。
なんか喋り方が地味におかしいフラウは置いといて。
きっと、彼女も思ったのだろう。
ちょっとやり過ぎた……と。
これには私も同感だね。
流石に死ぬだろ、これ。
てか、審判が止めろよ、ドクターストップ級の事が起きてるんだからさ?
思わず、私が半眼になっていた時だった。
「まだ、終わらねぇぜ……?」
あんたは、不死身か!
槍の一撃を受け、身体の内部と外部を燃やされたと言うに、未だ戦意を保っているパラス。
それだけじゃない。
「まさか、ここまで追い込まれるとは思わなかったぜ………」
未だパラスには、どこか余裕があった。
上位攻撃力上昇魔法レベル60
上位防御力上昇魔法レベル60
上位身体速度上昇魔法レベル60
ここに来て、そう言うのを隠していたのかい、パラスさんよ………。
その瞬間、パラスの能力が爆発的に上がった。
同時に、
治療レベル5
パラスは自分に回復魔法を掛ける。
治療は、回復の基礎魔法だ。
基礎魔法だけにレベルは最大で10までしかないが、ある程度までなら回復も可能だ。
上位には上位治療と身体復元魔法等がある。
これの最上位が復活魔法となり、呼吸停止級の半死人すら一瞬で復活させる。
ま、そこはさておき。
剣士なのに、補助魔法や回復魔法も使うのか。
こいつは厄介だな。
完全とは言えないが、それでも身体のダメージを回復させたパラスは、そのまま一気にフラウへと詰め寄る。
直後、フラウも素早く逃げようとするが、補助魔法で爆発的にスピードを上げていたパラスにあっさり追い付かれ、
ドゥゥッ!
「………かは………ぁっ」
腹部に強烈なアッパーが決まる。
この瞬間、フラウの敗北が決まった。
●○◎○●
「くそぉぅ………」
一時間後。
すぐさま、治療班に担がれて保健室へと直行し、回復魔法を受けたフラウは、戦闘不能から復活していた。
中々どうして、冒アカの治療スタッフは優秀なのだ。
結果、今のフラウはピンピンしていた物の、気分は大きく落ち込んでいた。
「パラス様は私にとって最愛の方ではあるけど、まさか負けるのは予想外でした……」
どんな落ち込み方だよ。
そう言えばこいつ、最初私に突っ掛かって来た時、パラスと仲良くしてるのが気に要らないとか言う理由だったな。
でも、負けるとは思ってなかったのか。
「正直、見た目とかは良いけど、戦闘的なのは私の方が格段上だと思ってました」
「いや、フラウ………それはパラスを少しバカにしてるかもだぞ」
そこで、私はクラス予選でルミとパラスが激闘を繰り広げていた内容を教える。
「ええええ! 上位陽炎魔法を気合いで無効に? 何者なんです? あの人!」
「……こっちが知りたいよ」
かなり驚いた顔のフラウに、私も苦笑する事しか出来なかった。




