戦いの始まり【3】
病院の受付に向かい、イリの病室を聞くと……やはり、半壊状態にある部屋のど真ん中だった。
真面目な話……何があったと言うんだ?
ともかく、イリに会って話をしないと。
思った私は、新しく違う部屋に移動したイリの元へと向かった。
……移動先も個室なのか。
変な所で無駄金を使うヤツだな。
ガチャッ!
「イリッ! 大丈夫だったかっ!?」
ドアを開けて間もなく、私は開口一番に叫んで見せた。
「イリ、大丈夫なのっ!?」
直後、ルミも心配そうな顔で叫んでいた。
「ああ、なんだ? ご丁寧にリダまでやって来たのかよ?」
返って来た返事は、至って普通だった。
「……何だよ、元気そうじゃないか」
私はホッと胸を撫で下ろす。
見れば、隣にいたルミも、やっぱり安心した様な表情を作っていた。
「もうっ! 驚かせないでよ……いきなり、イリの病室が凄い事になってて、心配しちゃったじゃないの」
程なくして、ルミが眉を釣り上げてプンスカ怒っていた。
……うむ。
普通にルミをしてるな。
最初は、ルミを大きく疑っていた節があった……否、今でもルミが本物であると断定する事は出来ないんだけど……やっぱり、これが演技で簡単にやれるかと言えば、難しい気もしてしまう。
…………。
判断は難しい所ではあるが、今の所は警戒だけして置く事にしようか。
それより、イリだ。
室内を見れば、既に病室のベットから起き上がり、服装も私服に戻っているイリがいた。
その周囲には、キイロとミドリのジウム親子と、ルゥの姿もいる。
なるほど。
キイロとミドリの二人はルミの言った通り、わざわざ学園まで迎えに来ていたのかも知れない。
そうなれば、不自然だと感じていたルミへの懐疑は、綺麗に消失して行く事となる。
「私も、少し不信感を持ち過ぎたかな……」
誰に言う訳でもなく呟くと、
「? どうかしたの? リダ?」
不思議そうな目で私を見るルミがいた。
とってもロイヤルでキラキラした笑みだった。
……不意に申し訳ない気持ちで一杯になる。
「な、何でもないよ……」
ごめん、ルミ……。
今の私は、とってもブラックな目でお前を見ていたんだよ……。
ひたすら懐疑の目で見ていた私は……その無垢な瞳を直視する事が出来ずにいた。
今までが今までだったからと、自分に言い訳紛いな事を考える私なんぞもいたけど……当然ながら、そんな事をルミに言うつもりはなかった。
疑ってはいたけど、直接ルミに口で言っていた訳ではなかったしな?
何より、ルミはそう言うのは鈍感だから、言わなければバレないだろう。
思った私は、敢えて堂々としている事にした。
でも、やっぱりルミには悪い気がするので、
「取り敢えず、ごめんなルミ。ありがとう」
「……? 変なリダ?」
謝罪の念とお礼なんぞを口にする私へ、ルミはキョトンとしながらも小首を傾げる。
きっと、意味が分からないんだろう。
まぁ、分かって貰っても困る側面もある。
「気にするな。うんとだけ頷いてくれたら、私の気持ちも晴れる……それだけの話さ」
「そう? なら、うん」
相変わらず素直なヤツだと思う。
ここまで素直過ぎると、逆に心配になってしまうよな……マジな話、絶対に詐欺とかに遭いそうな気がする。
……と、変に話が脱線してしまった。
話を戻そうか。
私は思考を切り替えてから、イリの方へと視線を向けた。
「所で……昨日、何があったんだ?」
言った私は真剣その物だ。
昨日の昼過ぎに来た時には、イリの部屋は何処も壊れていなかった。
正確に言うのなら、まだ襲撃前だった。
この事から考えて、イリの部屋が半壊してしまったのは、昨日の夕方以降と言う事になる。
「ああ……それな? それに付いてはこっちも一つ聞きたい事があったんだ」
イリはそこまで言うと、眉を潜めて答えた。
「リーナのヤツは、本当に死んだのか?」
ああ、そう来たか。
妙に神妙な顔になっていたイリの表情と、この台詞から予測すると、
「ここに来たのって……リーナだったのか?」
「ああ……間違いないな」
私の言葉に、イリは即座に頷いて見せた。
「なるほど……すると、正しいのは衛兵ではなく、バアルの情報って言う事か」
「バアルが何かをお前に言って来たのか?」
納得混じりに口を動かす私を見て、イリは少しだけ意外そうな顔になっていた。
……どうして、お前がそんな顔をするんだよ?
むしろ、私は今のお前を見て意外だと思ったぞ。
イリとバアルは、確かに面識はあるんだけど……馴れ合う様な仲ではない。
けれど、今のイリが見せる顔は、確実にバアルとそれなりに交友関係を結んでいる様に見える。
正確に言うのなら、バアルの性質を少しは知ってる風に見えたのだ。




