戦いの始まり【2】
ドアを開けて来たのは、ルミだった。
「……?」
私はポカンとなる。
「どうしたのリダ? 朝からいきなり変な顔して?」
呆けた顔になる私に、ルミは不思議そうな顔になって小首を傾げた。
……いや、だってだな?
「ルミ……お前、授業はどうしたんだよ?」
確か、学園長の粋な計らい(?)とやらで、テストの結果次第と言う条件付きながらも、授業の免除を受けていたのは、私とフラウとユニクスの三人だけだった筈。
それなのに、どうしてかルミが私の部屋にいる。
…………なんだろう? 違和感しかない。
「そんな事を言ったら、リダだってそうじゃない? リダが良くて私がダメってのはおかしいでしょう?」
コロコロと笑って言う。
こう言う所は、完全に私の知っているルミなんだが……うーむ。
やっぱり、変だ……変過ぎる。
「……いや、その理屈はおかしいだろ? 私がダメなら、お前もダメ……両方ダメって事になる」
呆れる私の言葉に、ルミは平然と答えた。
「ダメならダメで良いよ? 私は未来の旦那が退院するから、退院と快気祝いをしないとね?」
答えてから、悪びれる事なく笑った。
……うむぅ。
思わず眉間に皺を寄せてしまう。
行動や態度は、いかにもルミらしいんだ。
実際に眼前にいるのは、ルミ以外の何者でもない。
反面、ここ最近の出来事には『偽物』が混じり過ぎている。
それだけに……思ってしまうのだ。
お前、本当にルミなのか?
正直、今にも口から出掛けてしまうまでの懐疑心が、私の胸元で渦巻いている。
けれど、現状でこの言葉を口にしたとしても……果たして効果があるのだろうか?
仮に偽物だったとして。
それを証明出来るだけの、確たる物が私にあるのだろうか?
…………。
「どうしたの? 急に黙り込んじゃって?」
悩みのツボに入ってしまった私がいた所で、ルミは不思議そうに私の顔を覗き込んで来た。
……うむぅ。
これだけ近くで見ても尚、本物のルミにしか見えない。
参った……。
私がやれる事と言えば、
「そう言えば、ルゥのヤツはどうしたんだ? いない見たいだが?」
軽くカマを掛けてやる事くらいか?
現状で、本物のルミなら近くにいつもいる未来の娘がいないのは実に不自然だ。
超絶コミュ障と述べても差し支えのないルゥを、まともな知人がいない学園内で一人っきりにさせる様な真似を、ルミがする筈がないからだ。
「ああ、ルゥなら、先にキイロやミドリと一緒に病院かな? 私はリダを迎えに来たって所?」
……うむぅ。
「そうだったのか? 悪いな。ありがとう」
私は笑みを作ってから、ルミにお礼を言った。
実際問題、これは自然とも不自然とも取れる。
コミュ障と述べたが、それは飽くまでもスペシャル人見知りと言うだけの話だ。
キイロやミドリとは、昔からの顔馴染みでもあるのだから、一緒に病院へと向かったと言う話も、あながちおかしな事ではない。
反面、キイロやミドリの二人が、わざわざ学園まで来たのか?……と言う話になる。
帝国病院から学園までの距離はそこまで遠くはないし、来る気になれば幾らでもやって来れる事は間違いない。
だが……それでも迎えに来る必要性があるんだろうか?
ルミの台詞は、本当にも嘘にも聞こえてしまうと言う……なんとも絶妙なラインを、私に見せていた。
ともかく、今の所はルミが本物でも偽物でも良い様に、色々と行動を取るシミュレーションを頭の中に作って置く事にしようか。
……と、こんな事を考えつつ、私はルミと一緒に帝国病院へと向かって行くのだった。
□○◎○□
帝国病院まで向かった私とルミの二人は少しだけビックリした顔になっていた。
「……あれ、何が起きたんだろうね……?」
答えたルミは唖然とした顔になっていた。
この言葉に、私が出来る返事は一つしかない。
「……なんだろうな?」
正直、そうと言うしか、他に何も出て来ない。
帝国病院の一部が、まるで何らかの衝突でも受けたかの様に半壊していたからだ。
規模もそれなりで……外側から見た私達二人も、それなりの距離から肉眼で確認する事が可能な状態だった。
しかも……多分なんだが、
「あの、壊れている部分って、イリが入院してた場所だよな?」
「ああ、やっぱりそうだよねぇ……」
私とルミの二人は、顔を青くしながらも会話をして行く。
そこから、無意識に私とルミの歩く速度が上がっていた。
何が起こったのか?
それを確かめたい気持ちが、歩調の速度を無意識に上げていたのだ。
こうして、私とルミの二人は本日退院する予定のイリがいる部屋へと向かおうとした。




