疑惑の始まり【17】
引き戸を開けて来た人物は…………うん?
「おいおい……」
私は口をへの字にした。
一応、リアルタイムで耳に入れていた事であったんだが……。
「まさか、本当にお前が学園長になってるとか……笑えないんだが?」
私はつまらない顔を作って、不本意な声音をぶつける。
教員室に入って来た少年……いや、学園長でもあるバアルに向かって。
……てか、お前はいつの間に、協会のコネを作ったんだ?
色々と言ってやりたい事はあるが、今は取り敢えず学園長と生徒と言う関係だ。
地味に不本意な部分もあるけど、ここで私元来の肩書きを公言するつもりもなかった。
何より、今はそんな下らない話がしたい訳でもない。
「学年主任からの有り難いお言葉は終わりましたかな? リダ様?」
ニッと小粋な笑みを作って言うバアル。
……どうでも良いが『リダ様』はよせ。
普通の学園長は、一介の学生相手に様を付けない。
「……リダ様? だって?」
……ほら見ろ。
臨時担任が、早くも唖然としてるから。
「リダさん? き、君は……一体?」
呆然となってしまう臨時担任がいた所で、厳しい表情を作っていたユニクスが、私と臨時担任の合間にずいぃっ! っと入って来た。
そこから、間髪入れずに臨時担任に向かって言う。
「まだ分からないのですか? あなたの自宅でお腹を空かせて待っている二匹の猫を養いたいのであれば、これ以上の詮索はしない事を強くおすすめしたいのですが?」
台詞だけは丁寧だが、語気はかなり鋭く……すこぶる剣呑だった。
同時にやって来ていたユニクスからの眼光は、もはや喧嘩腰を通り越して、即座に殺しに掛かりそうな勢いですらあった。
「……そうか……すまない……」
たまらず白旗を上げる臨時担任。
……君子、危うきに近寄らず。
人間、無難に生きたいのであれば、余計な興味は持たない事だ。
実際、ここで臨時担任に言うべき事は何一つない。
むしろ、変な事を吹聴した事で、この臨時担任にどんな危険が迫って来るか……分かった物ではないしな?
そこから程無くして、
「学年主任の話が終わったのであれば、少しだけ学園長室へと来て頂けますか?」
簡潔にバアルが私達を学園長室へと招待して来た。
「わかりました」
この言葉に、私は礼節を持って応対する。
臨時担任がいる手前……生徒である事をアピールする必要があったからな。
地味に面倒ではあるが、まだ暫くはここで生徒をしている身の上だし……この程度は仕方ない。
「ユニクスやフラウは、別に無理してまで来なくても良いぞ?」
そこから私は、近くにいたフラウやユニクスへと声を出してみせた。
もうすぐ夕飯の時間だしな?
腹の虫も鳴る頃だろうし……バアルとの話は、私が一人いればそれで十分事足りるだろう。
「いいえ。私はこの男を信用しておりませんので」
しかし、ユニクスは即座に首を横に振った。
「リダやユニクスお姉が行くなら、私も行くよ……と言うか? 二人はちょっと私をハブり過ぎっ!」
フラウは眉を捻って私へと言い放った。
そんなつもりは毛頭無いんだがなぁ……?
「お前らが来たいって言うのなら、私は止めないよ。特にフラウ……お前をハブる気はないからな? ちゃんと私は考えてるからな? そこ、勘違いするなよ?」
私は苦い顔になってフラウに答える。
正直、そこは本意ではない。
むしろ心外だと、声を大にして叫びたい!
「分かってるなら良いよ」
そんな私の気持ちを汲んでくれたのか?
フラウは、少しだけ機嫌を回復させてから返答してみせた。
「……では、学園長室に行きましょうか」
私達三人は、バアルの招待によって学園長室へと向かう事になって行くのだった。
○◎●◎○
学園長室にやって来た私達三人は、
「取り敢えず、好きな所に座って、寛いで下さい」
穏和な笑みを柔和に作って答えたバアルの言葉に甘える形で、各々が好きな場所に座り、文字通りリラックスした状態で座って見せた。
正確に言うと、リラックスしていたのは私とユニクスだけだったが。
ユニクス辺りは……もはや、まるで自宅にいるかの様な勢いだ。
そこまで言葉に忠実な態度を取らなくても良いと思うんだけどなぁ……?
他方のフラウは、バアルとの面識がなかったからか?
普通に学園長と言う感覚で対応していた。
「ね、ねぇ……リダにユニクスお姉? どうして、二人はそんなデッカイ態度してられるの?」
「この部屋は、態度が胸に比例してるだけだ」
「だったら、私の態度も大きくなるでしょっつ!」
それは無理な話だな? ペッタン子。
しれっと答えた私に、フラウはこれ以上ないまでの不条理を顔に作ってから、猛然とがなり立てていた。




