疑惑の始まり【15】
一通り、イリから話を聞いた私は、ヤツに軽くお礼を言ってから病院を後にした。
話によれば、早ければ明日にも退院する事が出来るんだそうだ。
キイロ的には、もう少し休んで欲しい所ではあったらしいんだけど……まぁ、イリは早く仕事に復帰したいんだろうな。
もし、この調子で邪神が復活してしまったのなら……世界はとんでもない事になってしまう事は間違いない。
……例え、水晶が予測している謎の化け物が、降誕してしまった邪神であったとしても……だ。
水晶が示した予測通りであったとするのなら、邪神は学園内で降誕し……私は邪神と戦う事になって行く。
そう言えば、途中からイリが入って来ていた様な気がしたけど……どうだったかな?
正直、私は背後に映った情景にばかり目が行っていたから、ちょっとイリがどうだったか分からないや。
恐らく、ここらはもう一度、水晶で確認すれば良いだけの事だから、気が向いたらもう一回見てみようか。
……それにしても。
まさか、まさかこの水晶に……こんな秘密が隠されていたとはなぁ……。
単純に、アインの魔法が封入された、無駄に頑強なだけの水晶だと思っていたのに。
幸か不幸か? 水晶は私のポケットの中にある。
一応、水晶の映像をイリにも見せようと思って持って来ていた。
思えば、その時にイリが映像の中に入っているかどうかを確認してれば良かったなぁ。
まぁ、別に構わないけどさ?
ともかく、偶然ではあったんだが、水晶をしっかり携帯していた私。
今後は、肌身離さず持っている事にしようか。
いつもの様に飾っていたら、誰かに盗まれる可能性もあるからな。
……さて。
「太陽も沈む見たいだし、ぼちぼち学園に戻ろうか」
一緒に行動を共にしていたフラウやユニクスの二人へと、私は軽い口調で答えた。
「そうだね……でも、なんとなぁ~く学園に戻ったら三人揃って職員室に行きそうになりそうで怖いね」
フラウは苦笑混じりで言う。
優等生のフラウからすれば、授業を無断でブッチする事は極めて稀有なケースかも知れない。
そこを考えると、職員室に召喚される事になったとしても、そこまで小言を貰う事はないと思うんだが。
むしろ、私の方が色々と言われそうで怖いよ……。
ここの所、真面目に授業を受けた試しがないからな!
「私は別に職員室に呼ばれても結構な話ですね……いっそ、このまま留年してリダ様と同じ学年になっても構わない程です」
ユニクスはニコニコ笑顔で言ってた。
何となくだけど、本気で言ってる気がして仕方がない。
「留年とかしたら親御さんが泣くぞ……それだけはやめておけ」
「……う」
ユニクスは思わず口ごもる。
転生前の記憶がある分……今の人間としての両親は、親であると認識こそあっても、本当の親と言う感覚はないのかも知れない。
けど、今のユニクスをユニクスとしてしっかり育ててくれた両親は、間違いなく今の親だ。
だからなのかは知らないが、
「そうですね……今の私と言う存在をここまで育ててくれた恩はあります。可能なら悲しませたくはないのですが……」
そうと答えたユニクスは、深い悩みのツボへと嵌まって行った。
私的に言うのなら、そこまで悩む必要がある物ではないと思うんだけどなぁ……?
妙に深刻になっているユニクスや、悩む事でもない事に深く悩んでいる姿を見て、口元を引き釣らせるフラウ等を横目で見ながら、私達は夕日が沈む商店街の街並みをバックにゆっくりと学園に戻って行くのだった。
●○◎○●
学園に戻って間もなく……案の定と言うか、何と言うか……やっぱり職員室からの召喚を喰らう私達。
……せめて、最後の授業ぐらいはちゃんと受けて置くべきだったかなぁ……でも、入院しているイリにも会いたかったし……とか、こんな事を考えつつ、寮に入って別れたばかりのフラウやユニクスと直ぐに合流するとか言う、なんとも間抜けな状態で職員室へと向かう事になる私がいた。
そして、三人揃ってのお説教タイム……と、思いきや?
「お前らは……一体、何をしたんだ?」
待っていた言葉はお小言でも説教でもなく、質問だった。
これには、私も面食らった。
そもそも、この教師はリーナが死亡してしまった事で、臨時教師となった学年主任でもあったのだが……。
「学長から直々に伝達があってな? しばらくはお前らを休学扱いにしろと言う伝達があった……ただ、次の中間考査でちゃんと普段通りの成績を残せる様なら、単位も保証して欲しいとか言う、アホな申し出だ。頓珍漢過ぎて、私も少し焦ってるんだよ……」
答えた臨時の担任は、言ってから溜め息を吐いた。




