疑惑の始まり【6】
抽象的に他の物で例えるのなら、仕事の上司的な存在がトモヨさん達が言う所の貴族諸侯達となる。
……だからこそ、ジャベリンの会社内でギャング団が蔓延っていると言うのに、それでも捜査令状を出すだけで終わっていた。
私的な視点からするのなら、これでも十分敢闘賞だと思うぞ?
基本的に、怪しいと分かっていても言えない事ってはあって……まぁ、何てか本当、世の中って本当に面倒な所があるんだよなぁ……。
ただ、こう言った所から腐敗ってのは進むんじゃないかな……なんて事も考える。
考えるんだけど、私も黙認していた訳だから、ある意味で同罪かも知れない。
結局、余所の話にわざわざ首を突っ込むなんて下世話な事をしたいとは思わないし、私の方でも所詮は他人事なので、そこまで面倒なんか見切れない。
結果、何の助けもない衛兵達は貴族達の言いなりにならざる得ないのだ。
そんな内情を誰よりも良く知っていたのは、他ならないトモヨさんでもある。
だからだろうか?
ジャベリンの皮肉めいた台詞を耳にした時、何も言えなくなって目線を下に落としてしまった。
そんなトモヨさんを見て、ジャベリンは気を良くしたのか?
「元々は、衛兵がやらなければならない『公平な裁断』を、私達が行っていた側面もあったのです……まぁ、違法ではありましたし、リダ様に睨まれてまでやりたい事柄ではないので、今後は一切手を引く事を約束致しますがね」
「……そうな。私の方でも、そこについては考えさせられる部分がある。近いうちに、色々と考えて見ようとは思う」
街と言うか……国単位で腐敗しているのは、やっぱりどうにも見過ごせない。
まして、中央大陸で一番の大国にして、世界レベルで見ても超大国の一つであるトウキ帝国が……実は汚職まみれの腐敗した国だったでは、笑い話にすらならないだろう。
ここらに関しては、多少の野暮を承知で口出しさせて貰おうか。
……さて。
話が色々と複雑になって来てしまったな。
ここで、話の内容を軽く整理する為にまとめて見よう。
ジャベリンの話を簡素にまとめると……こうなる。
リーナは密入国者でも何でもなかった。
その結果、衛兵が動く事になりそうだ。
挙げ句、犯人を私にしたいと考えている連中が結構いて、私に捜査令状が届く手筈になっている。
果ては、数日中には逮捕状の作成すら現実の範疇内と言う、べらぼうな早さで拘束され兼ねない為、ユニクスが私を学園から連れ出す非常事態に。
しかしながら、私を陥れようとしている腐った貴族達に対してはジャベリンが何らかの報復をすると言っているので……私に逮捕状が発行される可能性はあっても、起訴される可能性はかなり低い。
ジャベリンの口振りから予測すると、貴族達が報復される事で、結果的に私の濡れ衣が有耶無耶になるからだ。
……とは言え、このまま素直に逮捕されてしまうと、しばらく治安部隊に身柄を拘束されてしまう事は必至で……まぁ、つまり、何だかんだで学園に戻るのは得策ではない。
私に残されている時間は、逮捕状が請求されるまでの短い時間。
一応、逮捕状が請求されても、上手く逃げる事も出来なくはないが……それでは単なる逃亡者になってしまう為、当然ながら世間的な体裁が悪い。
ベストな状態としては、逮捕状が発行されるより先に、真犯人を見つけ出す必要があると言う事になる。
……他方、それとは別に、伝承の道化師を研究すると言う、実にオカルトチックな研究機関が存在し、これが今回の黒幕だろうと予測出来た。
まだ断定はしていないが……恐らく、ここに関しては確定レベルと見て良いだろう。
但し、所詮は憶測の域を得ていない。
前回の反省も予て……ここは、備考程度に考えて置いた方が無難だろう。
この組織は私が所属している中央大陸の冒険者協会・本部の人間まで支配下に置こうと画策している模様なので、ここはしっかりと食い止めて置かないとならない。
ここに関しては、私も色々と手を打つ予定だ。
本部にいる、私にとって信頼の置けるヤツとコンタクトを取り……その一方で、こちら側でも独自の調査を行う予定だ。
こっちでの調査は……そうだな? バアル辺りにでも頼もうかなと思う。
ヤツの配下でもあるハエ軍団ならば、街の細部までキッチリしっかりと調査してくれる事、請け合いだ。
私の着替え姿まで盗撮してしまうその技量は、それなりに評価している。
でも、次は絶対に私の盗撮だけはさせないからなっ!
第三者の監査機関ではないが、それに近い感覚になるのかな?
何にせよ、バアルが適任だと私は思っているし、この期待に応えてくれるとも信じている。
よって、ここに関しては皆に助けて貰う形を取るとして。
問題は次だな。
真犯人を探す事。
こればかりは自分でやらないと。
皆に全てを甘えるのは、私的に本意ではない。
かと言って、全部出来る程、私も万能じゃないからなぁ……。
そうなれば、やはり真犯人を探すと言うこの一点だけでも、私が自分の手で行いたいな……と、思った訳だ。




