疑惑の始まり【4】
私の予測ではあるんだが、邪神の様な力を持つ超存在……と言いたいのではないかと思われる。
西側の邪教って何だろう?
多分、その邪教の神に匹敵または、類似する存在の研究をしているんだとは思うんだが。
「伝承の道化師と言う名前をご存じですか?」
「またコイツかよっっ!」
もう、何処にでも出て来やがるな、コイツはっっ!
神妙な顔を一切崩す事なく言って来るジャベリンに、私は思わず大声で叫んでしまった。
「やはり知っておりましたか……」
「知ってるも何もないよ……もう、何回アイツのせいで面倒な目に遭ってるか……」
顎に手を当てて頷くジャベリンに、私は大きく項垂れてぼやいた。
確かにアイツは邪神と呼称されるにピッタリだ!
大抵の場合……邪神と神は紙一重な所もあるけれど……あれは全人類の敵と言っても過言じゃない。
否……この世界に生きる全ての敵だ!
「この道化師を研究する施設が、西側諸国にはあるそうなのですよ」
「……なぬぅっ!」
私はすっとんきょうな声をデッカく上げてしまった。
それは、世界を破滅に追いやるだけの話じゃないのか!?
そんな施設があるのなら、冒険者協会の名に懸けて、全力でぶっ潰してやるっ!
「西側の何処だ? 何処の機関だっ!? 即刻、圧力掛けまくってやるっ!」
「西側の冒険者協会本部・直系の特殊研究所の様です」
「よりによって身内かよっっ!」
バカなの!?
私の組織って、バカの集まりなのっ!?
もう、驚きと呆れで涙も出ないよ……。
そうと、途方に暮れた顔になっていた私へと、ジャベリンは言って来た。
「元々は、この道化師に対抗する為に色々と研究データを集める事が目的の機関だったそうです。西側は、昨今のモンスターが異様に強くなっている理由を、この道化師による物ではないかと考えたらしいです」
「……なるほど」
ジャベリンの言葉に、私は納得した。
ここ数年……モンスターの能力が、何故か異常に強くなっている。
これは世界規模で起こっている事なので、西側諸国も黙って見ている訳には行かないのだろう。
私としても、この一点については黙って見過ごす事は出来ないと感じており……その結果に生まれたのが、今の学園でもある。
序章で説明しているが、今の私が通っている学園は、昨今のモンスターが強くなっている為、より強い冒険者を育成する必要があると見て開校させた学園だった。
これと同じ要領で、西側では道化師を研究する事で、モンスターが強くなっている原因を突き止め様としていた……と、予測する事が出きる。
これは立派だ。
私の様に『敵が強くなったのなら、こっちも特訓して強くなろう!』とか言う、冷静に考えると少し無理がある思考とは異なる、実に合理的な考えとも言えた。
実際の所……伝承の道化師がやっている、世界規模の暇潰しが……現状のモンスターを強化させている訳で……。
だったら、伝承の道化師は、どんな方法でモンスターを強くしているのかを研究すれば、そこに答えが眠っているかも知れない……と考えてもおかしな話ではなかった。
これなら確かに真っ当な理由でもあるし……私も是非、協力したい物だ。
だけど、謎は残る。
いや、謎だらけだ。
仮に邪神……てか、道化師を研究していた所までは、人類の未来を考えた一大プロジェクトであったとしても……そこに物々しい単語が、どうして付きまとうのか?
邪神の研究をしていた、元・研究者。
そして、理由は分からないけれど、裏切り者のレッテルを張られていて……挙げ句、密入国してまで暗殺して来たアサシン達の味方までした挙げ句……殺害されてしまう。
しかも、殺害した犯人は私だと言う濡れ衣まで被せて来るオマケ付きだ。
ここまで好き勝手な事を仕出かし捲る頭のおかしな集団が、常識ある組織である筈がない。
「世の中、大きな組織は少なからず一枚岩ではないと言う事ですよ……そこには幾つかの派閥が形成されておりまして……ねぇ」
言い、ジャベリンは嘆息した。
彼からしても、面倒な相手なのだろう。
少なくとも、顔ではそうと言っていた。
「中には、邪神の持つ神秘的な宇宙エネルギーに魅了されてしまう輩もいたと言う事です。邪神の研究が進むにつれ……そのエネルギーがどんな物で、どの様な力を秘めているのかと知って行く事になるのです……その結果、ある一人の研究者は考えたのです。これは兵器にすらなると」
……ああ、なんてか……もう……。
段々と話が見えて来たよ。
つまるに、今回の黒幕ってのは……。
「邪神を研究している連中の中でも、狂った研究者達って事になるのか」
「ズバリそうなります。今回は邪神の秘めた力を兵器として利用出来るかどうかの試験をして見たかった模様です。どう言う方法を使うのかは、まだ不明瞭な部分がありますが、概ねその様な形であると予測されます」
全く……バカな事を考える奴等だ。
淡々と説明して来るジャベリンに、私は落胆と失望……そして、大きな遺憾の意を抱いた。




