疑惑の始まり【3】
一体……どう言う事なのか?
他方、この事実をユニクスも知らなかったのだろう。
トモヨの話を耳にして、顔を蒼白にしていた。
今にも信じられないと言い出したいユニクスがいた所で、ジャベリンが口を開く。
「やっぱりアンタの様な部外者が口を開くと面倒な事にしかならないな……」
ジャベリンは苦い顔になっていた。
これに、トモヨは心外を露にする。
「少なくとも、あんなの様な胡散臭い人間から比べれば十分マシ! って言うか、部外者なのはどっち!? 少なくとも、今回の一件はアンタ達は加害者で、私はその真相をしっかりと聞く義務があるんだからっ!」
まぁ、衛兵様だからな……。
口早に叫んでいたトモヨに、私はどんな返事を言おうかで迷ってしまう。
彼女の事はあんまり知らない私ではあるんだが……どうやら、かなりの正義感がある模様だ。
それはそれで大切な事だし、むしろトウキの治安部隊を指揮する隊長が、汚職まみれの腐った官僚みたいな真似をして来たら、こっちが胸くそ悪くなる話ではある。
……とは言え。
「アンタは裏の世界を知らな過ぎるんだよ……少し噛っただけのにわかでしかない。そんなのに出しゃばられると、こっちが迷惑なんだよっ!」
憤然と喚くジャベリンの言いたい事も分からなくもない。
結局……真面目過ぎると、この手の話が進まない事も確かだ。
一例を上げるのなら、委員長体質の真面目なヤツが話し合いに混ざれば、少しの不正も許されない為……些細な部分でも話の腰を折られる……と、こう言う具合だ。
それなら、どうしてトモヨの様なヤツをジャベリンはわざわざ連れて来たって言うんだろうなぁ……?
素朴ながら疑問に感じていた私だったが、その答えはすぐに出た。
「くそ……わが社が、まだ衛兵の管轄下にあった事にうっかりしてましたよ……まさか、こんなヤツに尾行されているとは」
心から悔しいと言わんばかりに、忌々しい言霊を吐き捨てて行く。
ああ……そう言う事だったのな?
現状、ジャベリンの会社は未だに治安部隊の監視下に置かれている。
一応、組織は解体されて……今ある会社はまともな会社ではあるし、会社側が受ける罪も、ほぼ大多数が確定していた。
後は手続き取って、裁判所で争うだけ……と言うレベルでもある。
だが、衛兵ってのは……しつこい。
本当にしつこい。
何か、自分達に都合の良い物が見付からないかと、しばらくは治安部隊の一部を起訴した相手等を執拗に監視する。
今回のジャベリンも、その監視網に引っ掛かったのだろう。
ああ、なるほど……と、妙に納得してしまう私がいた。
そろそろ、話を戻そうか。
「正直、こんな形でリダ様に御迷惑を御掛けする事になるとは、夢にも思いませんでした……誠に深くお詫び申し上げます……」
ジャベリンは、再び私に頭を下げて来た。
私は苦笑する。
「相変わらず腰の低いヤツだな……大丈夫だ、私は気にしない」
やんわりと笑みで私は言い……そこから真剣な顔になった。
その上で、再び口を開く。
「それで? 今回は、どんなおかしな理不尽が重なっているんだ?」
「はい……まず、リーナでしたか? リダ様の担任でもある女は、実際に冒険者アカデミーで教員をしていた『だけ』と言う点ですが、これは事実です……が」
言ったジャベリンは、ここで神妙な顔になった。
「どうやら、西から逃げて来た研究者だった模様です。言うなれば、ヤツは連中達にとって裏切り者にも近い」
「……ほぅ」
それは興味深いな。
「何を訳の分からない事を言い出すの!? あなたは自分で言ってる意味が分かってる? これは、リダさんがリーナさんを殺したかどうかを……もがもごぉっ!」
直後に、眉を釣り上げて叫んだトモヨがいたのだが、ユニクスとフラウの二人に羽交い締めにされていた。
用意周到な事に、タオル何かを用意していたユニクスが、トモヨの口をしっかりと塞いで見せる。
まぁ、ユニクスの場合、ビックリする位に色々と準備しているからな……こう言う時は有り難いよ……。
気を取り直す形で、私はジャベリンを見る。
「まず、色々と聞きたい所だが……研究者ってのは何だ?」
「そうですね……これは私も噂を常々聞いてはいたのですが……どうやら、西側の一部で邪神の研究をしているらしいのです」
「邪神……だと?」
私の眉がピクンッと跳ねた。
それが事実なら、かなり由々しき問題だった。
邪神と言うのは……まぁ、一般的に言うと邪教の神だ。
簡素に言うのなら、敵対する宗教の神辺りが、この邪神になる。
つまり、教徒が変われば、それは邪神どころか神にすら化けてしまう。
けれど、ジャベリンが言う『邪神』と言うのは、恐らくこの邪神ではないだろう。




