驚きの始まり【15】
しかし、そうなると……。
「私は、学園で戦うなんて真似は出来ない訳だよなぁ……」
ぼやく様に独りごちる。
これは大きなジレンマだ。
何故なら、この化け物は見るからに正気を保っている様には見えないからだ。
仮に正気を保っていなかったとするのなら? この化け物を学園から外に出す事は絶対に許されない。
トウキの街に、こんな化け物を放り込んだ時点で、何万と言う人間が犠牲になってしまうだろう。
だが、しかし……だからと言って、学園の生徒を犠牲にしても良いと言う理由にはならない。
犠牲の規模や人数は大きく緩和されるかも知れないが……ポイントはそこではないと思う。
犠牲が多かれ少なかれ、犠牲が出てしまう時点でダメなのだ。
どうやら、最終的に私の方が能力的に上手だったらしく……苦戦を強いられつつも、何とか激戦を制して行く模様なんだが、その代償は余りにも……余りにも大きかった。
「……私は、どうすれば良いんだろうか……?」
迫り来る危機。
水晶が示す未来は、余りにも壮絶で……残酷だった。
倒す事は出来るけど、その代償に学園は破壊され……生徒も相当数の犠牲を出してしまう。
かと言って、戦闘エリアを移せば、そのエリアの被害が甚大になると言うだけ。
水晶の予測では、私が勝つ事になっているが、生徒の身を案じ……被害を最小にしようと迂闊に手を抜いてしまったのなら、やられるのは私の方になって行くだろう。
その結果、どうなる?
場合によってはトウキは壊滅的なダメージを受ける事になるだろう。
単に勝つだけなら、まだ良かった。
素直に『なんだ勝てるんじゃんか』と喜ぶ事だって出来た。
けど……。
「これじゃ……勝っても、ただ……虚しいだけじゃないか……」
まさに八方塞がりな未来予知を前に、私はただただ唖然とせざる得なかった。
コンコンコンッ!
その時、ドアをノックする音がする。
程なくして、
ガチャッ!
比較的、勢い良くドアを開ける音がすると、
「おはようございますリダ様っ! 今日も元気に学園へと向かいましょうか」
元気な声音とセットで快活な笑みを浮かべるユニクスの姿があった。
どうやら、いつものユニクスに戻ったみたいだな。
性格的な物ではなく、身体的な意味で。
体内のカオス的な比率を上げる事で男になっていたユニクスは、普通に女へと戻っていた。
ついでに言うのなら、昨晩受けた特大の超炎熱爆発魔法の影響もないらしく、実に元気な姿を私に見せていた。
これはこれで、私としては嬉しい限りなんだが、
「ああ、おはようユニクス」
今の私は、ユニクスの様な快活さを見せる事が出来ないでいた。
「うん? どうかしましたか? リダ様? かなりテンションが低くなっている模様ですが……?」
「ちょっと……な?」
言うなり、私は水晶を見せた。
ユニクスの口がへの字になる。
「またしても、その邪悪な水晶が原因ですか? いけませんねぇ……もう、その水晶は手放してみては如何です? 私がしっかりと廃棄物処理所に捨てて来て上げますよ?」
一見すると冗談めいた台詞にしか聞こえないのだが、きっと本気で言ってるんだろう。
少なからず、目がマジだ。
当然ながら、そんな事をするつもりはない!
「これは、私にとって大切なアインの形見でもあるからな。そう易々と簡単には捨てられない代物でもあるんだ」
「んなっ!? やはりリダ様は、アインの暗示に掛けられているに違いありませんっ! 即刻、その邪悪で汚らわしい水晶を破棄しなければっ!」
叫び、私の手元にある水晶を強奪しようと試みるが、
「……で? 爆発したいと?」
次の瞬間、ユニクスの顔面を鷲掴みにした私がいた。
ムギュッ! っと、顔を捕まれたユニクスは、
「あ、あはは……じょ、冗談ですって!」
素直に降参する形で私へと言って来た。
ふん……まぁ、今回は見過ごしてやろう。
私はアイアンクロー状態にあった手を離した。
「それより、リダ様……今度はどんな予告を見たのですか?」
顔面の束縛から逃れたユニクスは、少し安堵の息を吐き出した後に私へと尋ねて来る。
この水晶の能力をユニクスなりに分かっていたからこその質問と言えた。
「百聞は一見に如かずだ。直接見て欲しい」
そうと私は真剣な顔で言い、
「……いや、ダメだ」
その直後、私は真剣な眼差しのままユニクスに答えた。
「……何故です?」
ユニクスの眉が捩れる。
正直、不本意で一杯な顔だった。
そうだよな?
私だって、立場が逆だったのなら、そんな顔になってしまうだろう。
何と言っても、さっきは良いよと言ったのに、数秒後にはダメだと言っていたのだから。




