【1】
「今日からこのクラスに転入する事になった、リダ・ドーンテンさんだ、みんな仲良くする様に」
担任と思われる二十代中頃程度の教師に紹介された私は、教壇の上に立ってペコリと頭を下げた。
下げたんだけど、だ?
二度言う様で気が引けるが……しかし、言いたくて仕方ない。
だから! なんで私が生徒になってるんだよっ!
いや、おかしいだろこれ? 一応これでも結構それなりの歳だぞ? 外見は時間魔法で十五歳程度になってるから、そりゃまぁ美少女してるが、やっぱりおかしいだろ?
え? 自分で美少女とか言うなって?
仕方ないだろ。他に誰も言ってくれないんだからな!
「今日からお世話になります、リダ・ドーンテンです。よろしくお願いします」
どうしてか学生になってしまった私は、場の流れから仕方なくクラスメートになるだろうメンバーに挨拶をして見せる。
それにしても、他にあっただろ? 用務員のおば……お姉さんとか、保険医さんとか、別に先生でもよかったんだぞ!
後で、ここの学園への侵入方法を考えた犯人を探して左遷してやると、心の中で仄かな憎しみを抱きつつ、私は席に座る。
「よろしく」
社交辞令もそこそこの声が、私の横からやって来た。
声がした方向を見ると、クラスメートになるのだろう男子が座っていた。
おお、なんか可愛い子じゃないか。
……とか言ったら、本人が怒るかも知れないな。
比較的引き締まっていそうな身体。肉体訓練を怠らずに頑張ってるのか少年! 偉いぞ!
「よろしくです」
将来は有望な冒険者に育ってくれるのだろうと、私なりの期待を抱きつつ、あいさつを返した。
だが、それ以上の会話には発展しなかった。
無口なのか? 寡黙を気取るのか? それが最近の流行りなのか?
いや、だめだぞ少年。そんなでは女子にはモテない! ここは転入して来たばかりの不安な女子をこうぅ、優しくしてやらないと行けないシーンだ。
しかし、隣の席に座る少年は、自己紹介する事もなく黙々としている。
なんてヤツだ! 私程の美少女を相手にしても尚、見向きもしないとはっ!
結局、普通に授業が始まり終わってしまうまでの間、全く喋ると言う事がなかった。
そして休憩時間。
……よし。
流石にこの時間はいけるだろう。
普通、転入生が来たら興味半分に声を掛けて来るヤツが一人はいる。
そうじゃなくても、クラス委員みたいなのがいて、自己紹介がてら声を掛けて来るに違いない。
ところが、次の時間は移動教室だったらしく、みんなスグに教室を出て行ってしまった。
え? なにこれ? リダさんは空気ですか?
仕方なく、私もみんなと一緒に外に出てみる。
行き着いた先は更衣室。ああ体操着に着替えるのね。
そう言えば私も秘書から体操着を渡されていたな……これを着るのか。
取り合えず着替えて見た。
その間にあった会話は次の授業が校庭だと言う事だけ。
なに、この業務内容チックな会話は! これはなんだ? 泣けと言う事なのか? ちょっと雑だろ、扱いが!
校庭にクラスメートが全員集まる。
見る限り四十人程度だろうか? まぁ、一組四十人は私が設定した案件だから、特に不思議には思わない。
不思議なのは、それだけの人数がいると言うのに、私の回りだけポツンとドーナツ状態になって、誰も人がいないと言う事だ!
おかし過ぎるだろ? 私が何をしたって言うんだ!
いよいよおかしい。
これは間違いなく、私を意図的に避けているとしか思えない。
一体、何が起きてると言うんだろうか?
だが、このままだと孤独な学園生活は必死になってしまう。
目的の魔族を倒したら学園生活も終了ではあるんだが、逆にいえば魔族を倒さない限りは学生してる事になる。
事実上の無期限学園生活をしてるわけだ。
その間、こんなドドメ色の生活なんかしてたら頭が剥げるわ!
仕方ない。
不本意だが、こっちからアピールをするか。
「あ、あのぅ………」
「え? はい! どうしました?」
特に言う台詞を決めていたわけではなかった為、なんだかおかしな言葉になってしまったが、それでも一応声を掛けてみると、ビクゥ! と、驚いた猫みたいな反応をされる。
だから、私が何をしたって言うんだ。
「みんな、話しかけてくれないのですが、私がなにかしましたか?」
「え? いいえ。何も悪い事なんかしてないと思いますよ」
だよねぇ。
んじゃ、なんで話し掛けて来ないんだよ?
意味もなく空気にされてたら、もう集団イジメだと思うぞ!
「………そう、ですね。多分、今までが今まででしたから」
………?
よく分からない。
「それって、どう言う………?」
ちゃんと理由を聞こうとした私だが、そこで授業が始まってしまった。