驚きの始まり【6】
「リダさん……あなたは何処にいたんですか?」
そうと答えたのはキイロだった。
顔から察するに、少し反発したい感情が見え隠れしている。
きっと、私に何か文句を言ってやりたい気持ちになっているんだろう。
「ちょっと……帰宅かな」
キイロの言葉に、私は悪びれた風もなく答えた。
「帰宅ですか? このタイミングでそんな紛らわしいと言うか、余計話が面倒になる様な事をして欲しくはなかったんですがねぇ……」
すると、キイロは私の言葉に噛み付く様な台詞をわざわざ言って来た。
実際、文句を言われても仕方がない部分もある。
キイロの視点からするのなら、いきなり何の予告もなく忽然と姿を消し……その間は、前触れなく行方不明になると言う無責任なヤツの為に、命懸けの戦いを強いられる事になってしまったのだから。
挙げ句……キイロにとって最愛とも言える旦那が生死の合間をさ迷う羽目になり……キイロからすれば、このフラストレーションを何処かにぶつけたい気持ちで一杯だったに違いない。
そして、その捌け口としては、まさに私は打ってつけと言えた。
それでも露骨な敵対心を見せるまでには至らなかったのは、イリがいる手前があったのかも知れない。
これで……もし、イリが死んでいたとしたら……私は一生、キイロに恨まれていただろう。
そう考えると、イリが何とか生きてくれて助かったかも知れない。
「それで? 今頃になってノコノコ俺の前に現れたって事は、何かを掴んで来たって事か?」
ご挨拶なヤツだな。
ベットで横になった状態のまま、イリは悪態染みた台詞を私に言って来た。
きっと喧嘩を売っている訳ではないんだろうけど……聞き方によっては反感を買いそうな勢いだ。
その口の悪さは、もう少しどうにかならない物なのかねぇ……?
「そうだな?……取り合えず、私を狙っている暗殺者の出所を掴んで、大本の組織を摘発した」
「なるほど? 昨日起きた謎の地震や、中心街の方にある大企業に衛兵からの逮捕状が請求されたとか言う噂話は、お前の仕業って事か」
私の話を耳にして、イリが不敵に笑った。
きっと、内心では『上等!』とか思っているんだろうけど、口にする事はなかった。
少しは誉めてくれても良いと思うんですがねぇ?
「お前の方で、どの程度の調べが付いているのかは知らないが、こっちも勝手に色々と調べさせて貰った。その結果……西側諸国の冒険者協会で、私を暗殺する刺客を送っていた見たいだ」
「……えっ!?」
説明口調の私に面食らっていたのはキイロだった。
どうやら、こっちにはその情報は入っていなかったらしい。
……他方、イリはかなり落ち着いていた。
いや、むしろ『やっぱりそうか』と言いたそうだ。
その表情から察するに……情報としては掴んでいなかったが、ある程度の予測はしていた……と言った所だろうか?
「ウチの組合でも、少しだけキナ臭い噂だけは入っていたんだ……西側の一部トップにおかしな画策を考えているキチガイがいるってな? ただ、あくまでも噂レベルな上に、明確な裏付けと言うか……根拠がなかった。お前を殺す根拠が、だ?」
結果、イリも眉唾である可能性を考えていたのだろう。
ただ、そう言う噂もある……程度の判断ではあったのだろうが、可能性として西側から暗殺者がやって来ている可能性も視野に入れると言う……両方の予測を、イリになりに立てていたんじゃないだろうか?
ただ、確証に至るだけの裏付けもないので、本腰を入れる事がなかっただけなのかも知れない。
よって、西側諸国の連中がやったと聞いても、余り驚かなかったのだろう。
「だが、どうやら『根拠がない』ではなく『根拠が不明』だったと言う訳か……つくづく面倒な話だな」
「確かに……そうだね」
イリの言葉に相づちを打ったのはキイロだ。
心なしか、この話を耳にした瞬間にテンションを大きく下げてしまった節がある。
一体、どうしたと言うのだろう?
ふと、不思議な気持ちになっていた私だが、その疑問は間もなくキイロ本人の口から吐き出された。
「リダさんを狙っていた暗殺者が、私の故郷から来てたなんて……その、これで西側の皆が野蛮だとか思わないで貰えたら嬉しいな……」
キイロは悲しそうな気持ちと申し訳ない気持ちをミックスしたかの様な表情を作って答えた。
この言葉に、私は素早く返答する。
「当然だろ? 西側には私にとって互いに背中を預け合った仲間がたくさんいる。間違っても侮蔑の念を持つ事はないさ」
むしろ、連中に迷惑だけは掛けたくない。
だから、可能な限り穏便に事を済ませたいと思っている程だ。
「……良かった」
私の言葉を耳にして、キイロは何処かホッとした顔になっていた。
それにしても、キイロは西側諸国の生まれだったんだな。
特に知る必要もない事ではあったんだけど、あっちにはドラゴンと人間が共同する町があるのか。
何となくだけど、今度行ってみたいな……なんて思う私がいたのだった。




