驚きの始まり【5】
動揺の色が顔に出ていた。
気が完全に動転していた。
本当に……どうしてこんな事に……!?
息急き切って向かった先にいたのは、ルミとルゥの二人と……ん?
あれ?
何でメイちゃんまでいるんだ?
私が知らない内に、何かあったと言うのか?
ふと、そんな事を考えていた時だった。
「……リダ? リダなのっ!?」
集中治療室の通路……面会謝絶状態で、せめて近くにいようと考えていたのか? 近くの通路にあるベンチに座っていたルミは、私の姿を見つけた瞬間に驚きの目を見せて声を掛けて来た。
ルミが声を吐き出した瞬間に、ルゥとメイの二人も私の方に顔を向けた。
間もなくして、ルミが私の方へとやって来た。
「……もうっ! 本当に何処に行ってたのっ!?」
言うなり、顔をクシャクシャにして私へと叫んで来た。
……うむ。
どうやら、かなり心配させてしまったらしい。
ここに関しては……そうだな。
申し訳ない気持ちもある。
せめて、何か一言でも言い残して置けば良かった。
「すまない……私もさ? 少し色々あったんだ」
「もちろん分かってるよ! 分かってる! リダがそんな無責任な事をしないのは、私だって分かってる! 多分、私達の事を考えた上で、そうしてるんだなって事も……イリから聞いてたし」
ルミは、答えてから目線を下にした。
そして、そのままの状態でボソッ……と言う。
「けど……それでも、せめて相談位はして欲しかったよ……」
哀愁にも似た雰囲気を醸し出して言った。
衝動的に抱き締めたくなった。
同時に、瞳から涙が出て来そうになる。
何てか……さ?
やっぱりルミは私にとって親友なんだな……って、改めて思わされたよ。
「ごめん……ごめんな……私も、もう少し、ルミ達に悩みを打ち明ける勇気があれば良かった。今では少し反省してる」
衝動的にルミを抱き締めてしまった私は、そのままの状態で自分の中にあった断罪の感情を言霊にして口から吐き出した。
「……うん。分かれば良いんだよ」
ルミは言う。
抱き締めていたので、顔は分からなかったけど……優しい声音だった。
私の全てを包み込んでくれるかの様な……そんな、温もりさえ感じた。
「リダお姉ちゃん……それで、大丈夫だったの?」
一拍置いてから、メイの声が私の耳に転がって来る。
そう言えば、どう言う訳か? メイがルミ達と一緒にいたんだよな。
私が学園に居なかった間に色々あって、今のメイがここにいる事になっているんだろうけど……本当、どんな偶然があったんだろう?
少し興味が沸いた私だったが、その話は後でゆっくり聞こうかな……なんて思った。
今は、メイの話を悠長に聞いている場合何かじゃなかったしな。
「それより、イリの容態はどうなんだ……?」
やや顔を渋くして尋ねた私の問いに、素早く返答したのはルゥだった。
「ここに運ばれた時点では、いつ息を引き取ってもおかしくない状態だったらしいのですが、持ち前の生命力とミドリお姉ちゃんの献身的な治療で、どうにか無事に峠を越した模様です」
答えたルゥは、穏和な笑みを緩やかに作って言う。
顔では言っている『安心して下さい』と。
「そうか……それは、本当に良かった」
私は安堵の息を漏らした。
あのイリが、簡単に死ぬ様なタマではないとは知っていたけど……やっぱり、その話を耳にしなければ気を許す事は出来ない。
最悪、周囲のスタッフを無視してでも、私が直接集中治療室の中に入って行って、上位回復魔法や蘇生魔法を発動させようかと本気で思っていた程だ。
……けれど、そう言えば確かにミドリは、特殊な存在だった。
何か、みかんの同類だった気がする。
詳しい事は忘れたし……まぁ、なんてかネタバレにもなる様な内容だったから、ここらは敢えて掘り下げないで置こう。
その話はここまでにして。
「そうだね。ミドリちゃんがどんな魔法を使ったのか知らないけど、面会謝絶ももう少しで解けるらしいし、イリも通常病棟に向かう手続きが、もう始まってるらしいよ」
ルミは笑みを混じらせて答えた。
「はは……心配させてくれるよ」
私は苦笑いで言うと、
「それをリダが言う?」
苦笑してツッコミ半分の台詞を言うルミの姿があった。
……ごもっとも過ぎて、何も言う事が出来なかった。
その後、一時間ばかりの時間を経過した後、イリの面会謝絶が解け……ついでに通常病棟への移動も始まっていくのだった。
■○◎○■
イリが通常病棟へと移動するまでの流れなどを軽く見据えた後、
「どうだ? 入院した気分は?」
通常病棟に移されたイリに、私は冗談めかした台詞を嘯き加減に言って見た。
「お陰さまで、最悪な気分を満喫している所だ」
冗談なのか本気なのか良く分からない台詞が返って来た。
きっとブラックジョークのつもりなんだろう。
うん……そう言う事にして置こう!




