驚きの始まり【1】
少しずつではあるのだが、犯人に関する情報や、今後に起こるかもしれない悲劇回避への進展を見せている……筈なのだが。
しかし、謎は深まって行ってる。
何と表現するのが妥当なのだろう?
謎が謎を呼んでいる……とでも表現するのが、一番良いのだろうか?
私を暗殺しようとしている暗殺者が、西側諸国からやって来たと言う事が判明し、そのリストも正確に作成する事も出来……なおかつ、新しい暗殺者を中央大陸にある、ここトウキへと侵入させる経路も分断させる事に成功したりと、中々の成果を上げてはいる。
反面、これら一連の内容を究明する事で生まれた、新しい謎にぶつかった。
私にとって前世の記憶に当たる為、あやふやにしか覚えていないのだが、名前だけは覚えている。
佐々木昌がそれだ。
ここは、まだ確定と言う訳ではない。
飽くまでも、この暗殺者達の作戦で使っているコードネームが『ササキ』と言うだけの話。
これが単なる偶然と言う可能性だってある。
だが、しかし。
もし……これが、必然的に付けられた名前であったとしたら?
同時に、アインの警告を思い出す。
アインは間違いなく、私を救おうとしていた。
つまり、これは私にとって最大の危機に直面するかも知れないのだ。
実際の所は分からない。
蓋を開ければ大した事にはならないかも知れない。
しかし、そんな楽観的な考えをしていれば、たちまち足元を掬われてしまう危険性だってある。
常に、最悪の事態を想定して行動をしなければならない。
そうと仮定すれば……これは非常事態以外の何物でもないのだ。
新しく浮上して来た脅威に、私の気持ちも引き締まる。
新たなる脅威も浮上し……事態がより複雑化して来た中、
「ふぅーむ……なるほど」
私は近所にある診療所に来ていた。
なんでこんな所に来ているのか?
診療所と述べたが、普通の病院ではない。
偶然だったのだが、ちょうど近所に催眠や深層心理等の病気を専門とする医者がいたのだ。
つまり、私がここに来た理由は、
「見る限り、あなたが催眠に掛かっている様子は見られませんね。99%問題ないと考えます」
そうと、朗らかな笑みで先生が答えていた言葉が全てを物語っていた。
そもそも、私が学園寮を出て、自宅に戻る選択肢を取った理由がこれだった。
既に催眠を掛けられていて……もしかしたら、自分の意思とは関係なく学園内にいる誰かに危害を加えてしまうかも知れない。
何の罪もない誰かを傷付けてしまうのも嫌だったが、それ以上に嫌だったのは、私にとって親友と述べて間違いない者達を傷付けてしまう事だった。
自分の意思とは無関係に……フラウやルミを傷付けてしまうかも知れない。
それが私には怖かった。
故に私は、自分におかしな催眠が掛けられていないかどうかを知る必要があったのだ。
これらの事情をジャベリンに話した所、打ってつけの医者がいると言う。
しかも、割りと近所にあったと言う、まさに灯台もと暗しな状態であった。
こうして、私はそこまで遠くもない場所にあった、診療所へと足を運ぶ事になって行くのだった。
「本当ですか!? 良かった!」
診療所に足を運び、検査を受けた結果が先程の台詞である。
私は素直に喜びの声を先生に返した。
ただ、少し気になる部分もある。
「所で……残り1%は、可能性として残っていると言う事ですか?」
「どんな物にも絶対はないと言う意味を込めての99%なのだよ。私、個人の意見で言うのなら100%と断言しても構わない……構わないが、医者としての立場として考えると、そう簡単に易々と100%を言う事は出来ない……つまり、そう言う事ですな」
なるほど。
可能性として、ほぼ確実ではあるんだけど……でも、絶対と言い切る事はしない……と、こう言う訳か。
逆に言うのなら、この先生の言う99%は100%と見て良いのかも知れない。
実際、バアルも私が正体不明の何者かと遭遇していると言う情報を聞いた話がないらしい。
使い魔を通じて、私のあれこれを見事に覗いているバアルの言葉だけに、この言葉を信用していなかった訳ではない。
人の着替え写真まで盗撮していた輩だしなっ!
正直、私のプライベートはない気もしなくはないのだが……それとは別に、ちゃんと私の精神を調べた上で、根拠のある回答を耳にしたいと言う気持ちもあったのだ。
よしっ!
これで安心して学園に戻る事が出来るなっ!
入学式から二日連続で無断欠席扱いになっているので、正直学園に戻ったら説教されそうな気がして憂鬱になりそうではあるのだが……逆に言えば、まだその程度で済むと考えた方が良いだろう。
この調子で、何日も休んでしまったのなら、何らかの処分を検討され兼ねないからな。
可能であるのなら、早く戻りたかったんだ。




