真相究明の始まり【22】
……が、しかし。
「私はリダ様が、どうして私を変な敵対目線で羨望視して来るのか、その意味が分からないのですが?」
こんな台詞を、ユニクスは真顔で言って来る。
これがフリとか、演技で言っている訳ではなく、本気の素で不思議そうな顔になっている所が驚きであり……そして恐怖でもある。
つまり、裏を返せば、
「私が生涯愛する相手は、リダ様……あなただけなのですから……」
真っ直ぐに私を見据え、恍惚の笑みを柔和に見せるユニクス。
この言葉に、何の偽りがないと言う事になる。
神様ってのは、時々……気紛れ過ぎる事をすると思えてならない。
世界のあらゆる男が一目で惚れてしまいそうな……そんな、絶世の美女とも言える人物を同性愛者にしてしまうのだから。
もうこれ、絶対にやっちゃ行けない事だよ!
親だって泣いちゃうよ!
もう、号泣だよっ!
折角、超絶美人な子に産んだと言うのに、その成の果てがレズなんだから……。
「一つ、気になったのですが……」
私が心の中で胸一杯の嘆息を吐き出していた頃……怪訝な顔になってジャベリンは口を開く。
そこから、訝しい顔のまま尋ねた。
「もしかして……リダ様とユニクスは……そーゆー関係なのですか?」
「どーゆー関係だよっっっ!」
私は物凄い勢いで怒鳴り返した。
その直後、
「そーゆー関係なのだっ!」
ババーンッ! って効果音が付いて来そうな勢いで、ユニクスが大声で断言して見せた。
「……なっ!? そ、そんな……事が……?」
ジャベリンは蒼白な面持ちで四つん這いになり、ショックで立ち直れそうにない雰囲気を、身体全体で醸し出していた。
「違うからなっ! 断じて違うからなっ! 私は極々ノーマルな女で、コイツと恋愛関係にあるとか絶対にないっ! つか、毎回毎回しつこく迫られて困ってるんだ! 頼むから、コイツを引き取ってくれ!」
この調子だと、またもやリダ様レズ説が出現しそうだった為、必死になって私はジャベリンに叫んで見せた。
果たして。
「そ、それは……ユニクスを私にくださると!?」
ジャベリンは一瞬にして復活した。
本当に落ち込んでいたのか怪しいばかりの復活スピードだった。
刹那、ユニクスは真っ青になって顔と手をブンブンやってた。
「リダ様! 私は物ではございませんっ! そんな事ばかり言ってると、人権侵害だと訴えますよっ!」
形振り構っていられなくなったのか? 完全に私へと敵意を向けて叫んで来た。
……ほ~?
「じゃあ、聞くが? リダさんを貰って下さい。あなたは貰いますか?」
「勿論! 美味しく頂きます!」
「よし分かった! ジャベリン、ユニクスと末永く、幸せになっ!」
「その質問で、どうしてそう言う答えになるのですかっっ!」
「当たり前だろ? 私が物扱いされたとして、お前の物になっても、お前は人権侵害だとは言わなかった……つまり、お前も同じ事が言えると言う訳だ!」
「それとこれとは、話は別ですっっ!」
「いや、同じだしっっ!」
私とユニクスは、妙な意見の食い違いを見せ、そこからああだこうだと喚き合った。
そんな私とユニクスの二人を見て、ジャベリンはクスッ……と微笑んだ。
「どうやら、ここはとっても平和な所なんですね……はは。そう言った意味でも気に入りました。ユニクスの事は今後も諦めるつもりは毛頭ありませんが……それとは別に、今後とも、よろしくお願いしますね」
答え、ジャベリンは丁寧なお辞儀をして見せるのだった。
……かくして。
暗殺者の密入国を防ぐと言う、大きな目的から始まったギャング団突入には、ジャベリンと言う思わぬ仲間を得る結果を産み、今後の犯人探しに大きな進展を見せて行くのであった。
うむ! そうなのだ!
本来の目的では、実は密入国者をこれ以上増やさない様にする事だった。
しかし、元来ある目的以上の成果が、このジャベリンと言える。
ジャベリンは、今回の密入国者のリストもしっかりと作成してくれた。
これで、犯人の特定がより綿密かつ正確に分かる事になった。
……そして。
「今回、わが社……あ、いや……我が社の元・下請け企業が請け負った件で、密入国者に指示した大元の存在……つまり、今回の黒幕を報告させて頂こうと思います」
今回の核心に迫る台詞がジャベリンから出た。
これは大きな進展だった。
因みに、元・下請け企業と変な呼び方をしていたが、一応の体裁と言う事を考慮しての事だと思う。
……そう言う事にして置こう。
何にせよ……だ?
「聞こうか」
私はジャベリンの言葉を耳にした瞬間、表情を真顔にする。
「まず、名前です。正式な名前なのかは不明ですが、オン・リュカと名乗っていたそうです」
「オン・リュカ……だとっ!?」
神妙な顔付きのまま答えたジャベリンに、私はくわっと目を大きく見開いて見せた。
他方、私の顔を見てジャベリンは何かを悟ったのか、
「……やはり、名のある人物でしたか……」
より真剣な顔になる。
私の口が動いたのは、ここから間もなくの事だった。




