真相究明の始まり【11】
そう言えば、トモヨって誰?……って人もいるかも知れないな。
そもそも、そこまで登場していない人物でもあるし……実は物語にも顔を出してはいるけど、オマケ短編でちょっとだけ出て来ただけなのだからして、分からないと思う人も多いだろう。
かく言う、私も半分くらい忘れていた。
…………。
取り敢えず、そこは置いといて。
トモヨさんと言うのは、前々回の剣聖杯にて優勝を飾ったユニクスに衛兵にならないかとスカウトして来た、トウキ衛兵の長だ。
結局、この話をユニクスは断ってしまったらしいのだが、このスカウトから以降……トモヨさんとは気が合うらしく、定期的に色々と交流を深めているらしい。
首都・トウキの治安を守る衛兵の一人にして、治安維持を目的とした部隊の若き指揮官でもある彼女は、部下から羨望の眼差しを受け……上官からの厚い信頼を得ている。
これら、彼女の肩書きを作り出した礎には、なんと言っても彼女の並々ならぬ努力と、神から祝福されているのではないかと嘯きたくなるまでの有能さであった。
簡素に言うのなら、今回に関して述べても、トモヨはしっかりと根回しをしてくれたらしく、トントン拍子で逮捕状まで発行して来た。
その迅速さと行動力の高さには舌を巻く。
何せ、捜査令状をすっ飛ばして、いきなり逮捕状だ!
話によると、捜査令状は既に何回か送り付けていたらしいが、悉く却下されていたらしい。
多分、様々な偉い人の圧力が衛兵に掛かって、逮捕状の発行が出来なかったんだろうなぁ……多分。
詳しい事は分からないが、今回は世界冒険者協会・会長でもある私が動いたと言う事で、これまであった圧力が綺麗に無効化した結果、これまでストックされていた捜査令状が、そのまま大放出される結果となってしまった模様だ。
挙げ句、逮捕状を作成して私に持たせた後は、方々を駆け巡り、動ける衛兵をかき集め様ともしていた。
ここには、きっと色々な所からの圧力を回避しようと言うトモヨなりの駆け引きがあるのかも知れない。
きっと、これは大事になる。
トウキでもかなり大きな規模のギャング団を潰してしまおうとしているのだから。
これが、西側諸国に喧嘩を売りかねないとなれば、トウキの貴族連中だって黙ってはいないだろう。
そう考えると、この短期間で良く逮捕状を作成する事が出来た物だ。
どんな反則を使ったのかは知らないが、この迅速さには素直に感心する事しか出来ないな。
まぁ、もしかしたらこの逮捕状こそが『西側諸国と喧嘩にならない証拠』になるから、早く発行する事が出来たのかも知れないが。
……そう。
今回の逮捕状の中身には、西側を非難する様な内容は記載されていない。
簡素に言うのなら、それだけ『叩けば埃が出る』連中だったのだ。
この逮捕状の内容を見ると……反吐が出そうになったぞ。
殺人、詐欺、窃盗、強姦、人身売買……本当、好き勝手にやってくれている。
この他にも、汚職と賄賂と談合等々……一部の貴族様が聞いたら血の気が引けてしまう様な代物もある見たいなのだが、今回の中には含まれていなかった。
やり方としては不本意ではあるのだが、この貴族様の面々がギャング団を庇護する立場を取ったら突き出してやろうと言う腹だ。
そして、この貴族達に、真実をチラチラと仄めかして置く方向で行きたいとトモヨさんには伝えている。
つまり『噂レベルではあるんだけど、今回の一件には冒険者協会の会長が絡んでいるかも知れない』と言う、曖昧ながらも本当の噂を流して欲しいのだ。
これが確定レベルになってしまうと……西側諸国の面々に迷惑を掛けてしまうので、飽くまでも噂レベルに止めて置かないと行けない。
噂レベルであるのなら、西側諸国の取る方法は『私らは知らない』と言えば良いだけだ。
仮に『それが本当なら由々しき問題だ!』なんざと騒いだ日には、向こうが困る事になる。
何の理由もなく、一方的に会長を暗殺しようとした西側諸国の協会……って構図が出来る訳だからな?
西側だってバカじゃない。
自分から自分の首を絞める様な真似はしないだろう。
よって、飽くまでも『噂レベル』にするのが重要なポイントでもあった。
このさじ加減は絶妙にやらないと行けないのだが……トモヨはしっかりと胸まで張って『任せてください』と自信満々に頷いていた。
この言葉を私は信用しようと思う。
これら諸々のプロセスを踏んだ私達は、トウキの中心地に堂々と構える大きな建物の前にやって来ていた。
表向きは貿易商の様だな?
……つか、割りとメジャーな貿易商だ……やれやれ、こんな所が実はギャング団の本拠地とはな。
「この国も……随分と腐った物だな」
これじゃ、衛兵が簡単に検挙出来ない訳だ。
私だって、ここがギャング団の総本部だと分かっていたとしても、見て見ぬフリをするだろう。
冒険者は別に英雄じゃないし、慈善事業の団体って訳でもない。
自分が喧嘩を売られた訳でもないのに、悪行を懲らしめる為とか言う正義の味方みたいな行為を、一銭の得にもならないのに強行するかと言えば、答えはやっぱりノーとしか言えない。
そして、そんな考えの連中しかいないから、こう言った連中がデカイ面して好き勝手に、傍若無人な態度で闇世界を牛耳る事が出来るのだろう。
そう考えると、やっぱりこの国は腐っているのかも知れないなぁ……。




