【6】
意外な事にも、今回はちゃんと相手が立っていた。
相手は……うーん。
どっかで見た事がある顔なんだけど、誰だったかな?
まぁ、クラスメートなんだし、毎日どっかで顔を合わしてるのかも知れないんだけど……思い出せない。
「あんた、誰だっけ?」
「え! マジで言ってるのか!」
相手の男は本気で驚いていた。
まぁ、クラスメートなんだ、名前知らない時点で驚く事なのかも知れない。
知れないんだけどさぁ?
「私さぁ、アンタみたいなチャラい男が苦手でさぁ」
興味を無くして、ついでに記憶もなくすんだよね。
「え! この格好……だめか? イカしてると思うんだけど……」
チャラ男は結構本気で言っていた。
お前の格好はイカしてはいない。
私から見れば、単にイカれてるだけだ。
「そうか……じゃぁ、この格好は今日でヤメだ。明日からはお前好みの格好に変える!」
ぞわぞわぞわっ!!!
私の背筋に毛虫が這いつくばった様な悪寒が走った!
やめろ、やめてくれ!
あたしゃ、あんたみたいなヤツが一番苦手なんだ!
「き、気持ち悪い事を言うな……百マール上げるからやめてくれ」
余談だが、ここの通貨はマール。
百マールで大体、黒パンが一個買える。
「なんでそんなに嫌うんだよ!」
「私の本能がダメだと言ってるからだ!」
「なんじゃそりゃぁぁぁっ!」
あ、へこんだ。
思いきりへこんで、四つん這いになってた。
少し可哀想な気もする。
しかしながら無理な物は無理と言う。
私はノーと言える女なのだ。
「じゃあ、せめて名前だけでも覚えてくれ。俺の名前はルーク。ルーク・ティトスだ」
ルークね。
わかったぞ、チャラ男。
「言いたい事はそれだけか? それならサッサと始めてもいいか?」
一応、試合は始まっている。
簡素に言うのなら、もう私はチャラ男に攻撃を加えても良いのだ。
「言いたい事は他にもあるけど、わかった。今は試合だしな……いや、ひとつだけある!」
チャラ男は、そこでハッとなってから再び口を動かした。
「もし、この戦いで俺が勝ったら、俺と付き合ってくれ!」
ドォォォォォォンッ!
叫んだ瞬間、チャラ男は爆発した。
もう、派手に爆発してた。
うっかり手加減し損ねる所だったが、ちゃんと死なない程度にはしておいた。
見た目は派手だが、ただの爆破魔法だ。
ただ、私が使えばそこらの魔術師の軽く十倍近い威力がある。
案の定、チャラ男は真っ黒焦げだった。
そのまま、ポテンと倒れて救護班に運ばれる。
「リダ君……今のは少し不味いよ……危うく死人が出る所だった」
審判の人もちょっとだけ苦い顔になって私に答えた。
審判をしてる人は、この学園の先生でもある。
それだけに、私も苦笑いで頭を下げておいた。
こんな所で反則負けにはなりたくないからな。
「すいません! 以後、気をつけます!」
「いや、君もちゃんと真剣に戦っただけだし、私も手を抜けと言ってるわけではないのだがね、しかし……本当に君は何者なんだ?」
「それは……多分、知らない方が良いと思います」
心底謎だと言うばかりの審判に、私は社交辞令チックな爽やかスマイルを満面に作って答えたのだった。
他方。
二次予選は終盤戦を迎える。
今の所、私の組だったAグループは全てのカリキュラムを終え、残ったBグループ最終戦を残すだけとなった。
Bグループ最終戦は、これまで互いに負け無しの対戦となった。
簡素に言うのなら、既にクラス予選を通過している二人の戦いと言う事になる。
余談だが、Aグループ通過の二人は私とチャラ男だ。
真っ黒焦げになってしまい、完全に病院送りかと思いきや、救護班の回復魔法で一時間もしない内に全快していた。
案外タフなヤツだった見たいだ。
だが、覚えておけチャラ男。
今度、あんなふざけた事を言ったら超炎熱爆破魔法かますからな!
そこはさておき。
B組最終戦を飾るのは、ルミ姫とパラスの二人だった。
まぁ、なんとなくこうなるんじゃないかと予測はしていたんだがな。
二人共、ここまで負けなし。
ついでに予選通過は既に決まっている。
要は、勝って一位通過になるか、負けて二位通過になるかの違いだ。
どの道、通過である事には変わらないのだが、お互い適当にやろうと言う気はないらしい。
特にルミ姫様はかなり真剣だ。
「多分、フラウも全勝で通過するし、リダも全勝通過だった。ここで私が負けたら、格好悪い!」
いやいや、ルミさんよ。
どうあれ、ちゃんと予選通過してるんだから、格好悪いなんて事はないでしょうよ。




