真相究明の始まり【7】
……と、地味に説明が長くなってしまったな。
ここらで、話を戻そうか。
「情報が確かであるのなら……どうやら、この暗殺者達は闇ルートを使ってトウキへとやって来ている模様です」
「闇ルート……か」
それは面倒な話だな。
簡素に言うのなら、正式に入国していない存在……言わば密入国に近い。
入国した場合であるのなら、当たり前だけど入国審査を受ける。
……が、これを通す事なく入国すると言う事は、入国審査局から情報を得る事が難しいと言う事になる。
もちろん、そうなれば衛兵だって正確な情報を得る事が出来なくなってしまうし……今の様に、暗殺者がいると言う情報を得ていても、的確な物かどうかを確認する材料が乏しくなる。
入国審査を受けていれば、その人物が何処の誰なのか分かるのだが、受けていないとなればもちろん不明だ。
密入国だと言う前提を入れて捜査をするとしても……世界は広過ぎるので、断定するのに時間が掛かる。
仮にオーサから来たと言う事が分かっても、今度はオーサの何処に住んでて、どんなヤツだったのかを調べるとなれば……その情報量は半端じゃない!
これらを加味するのなら、密入国を許してしまった場合……暗殺者はかなり有利な条件を手にいれたと言う事になる。
「全く、面倒な話になってしまった物だ……」
「そうですね……これに関しては、私も同意せざる得ません……しかしながら、です?」
言うなり、アシュアは私の前で二本の指を立てて見せた。
「そこで二番目の重要情報です。この闇ルートを作り出しているだろう組織を断定しました。どうやら、裏のシンジゲートを一手に引き受けるギャングの模様です」
「……なるほど。それは朗報だな」
有能過ぎて、私も唖然となってしまう。
そして、超重要事項はいらなかったんじゃないかと心底思った。
「一応、色々と調べては見たのですが……ここで、面倒な事実が発覚しました」
「面倒な事実だと?」
「そうです。ある意味で納得してしまうのですが、それはそれで面倒な事実です」
うーむぅ……。
何と言うか、聞きたい様な……聞きたくない様な?
アシュアの口ぶり加減から考慮すれば……きっと頭を抱えたくなる内容を耳にする羽目になりそうではある。
しかし、だからと言って聞かない訳にも行かない。
本当……悩ましいな。
「聞くだけ聞こうか」
「はい。実は、このギャングと繋がっている組織が……冒険者協会・西大陸総支部らしいのですよ」
「…………え?」
ポカンとなる。
なるほど、そう来たかっ!
つまり、私の命を狙っている相手と言うのは西側諸国の冒険者協会と言う事になる。
やってくれる!
これはもう、中央大陸に喧嘩を売っているとしか思えない!
けれど、その反面で……黒幕が西側の冒険者協会にあったとしても……その犯人と動機が分からない。
いがみ合っていた時代があったとしても、それはもう百年も前の話だ。
冷戦が終了して、早五十年になる。
現在では西も中央も仲良くやっていると言うのが現状だった。
しかし、そう思っていたのは……どうやら中央大陸だけだったらしい。
どうしてこうなったんだ?
今……西側で、何が起きていると言うのだ……?
「くそっ!……真面目な話、向こうの考えが全く理解出来ないぞ……」
「こちらの詳細に関しては、まだ詳しくは分かっておりませんが……どうやら、一部の上層部が暴走していると言う話です。特定している訳ではないのですが、おおむねその内容で間違いはない模様です」
「上層部の暴走ねぇ……」
私に恨みを持つトップがいたと言う事か。
心当たりが有るような、無いような……うーむぅ……。
私は両腕を組んで唸り、悩んでしまった。
「こちらについては今後も調査をして行くので、詳しい詳細に付きましてはもう少しばかりのお時間を頂けると幸いです」
「うむ。今後も期待して置こう」
「ありがとうございます」
アシュアは素直に笑みを浮かべて頭を下げて来た。
恐らく、アシュアの主はバアルで……その関係があって私に柔軟な態度を取っているのだろうが、それでも好感の持てる相手だと思えた。
「闇のシンジゲートを操るギャングについては……現状だと、圧力を掛けるにしても我々では力不足な部分がございます。こちらに関しては、リダ様のお力を拝借出来ればな……と考えているのですが、大丈夫でしょうか?」
「任せておけ。これでも私は会長だ。相手が西側諸国の連中であろうと、何であろうと同じ組織であるのなら、それなりに行動を取る事も出来るだろう」
少し申し訳ない顔で申し出て来るアシュアに、私は快く承諾する形で頷いた。
西側が何を考えているのか知らないが、冒険者協会の頂点である私を暗殺しようとしているとしたら、これは大事件だ。
これは、私自ら協会の本部で緊急会合を開いて、西側の連中を糾弾してやっても構わない。
構わないが……しかし、反面で思う。
西側の連中の全てがそう思っているのか?……と言う事だ。




