真相究明の始まり【6】
「では、重要情報の最初から。一番目のニュースは……リダ様を狙う『予定の相手』が複数目撃されていると言う事です」
「……何だと?」
静かに……淡々と、内容だけを事務的に報告して来たアシュアがいる中、私は動揺を隠せずに眉をよじった。
反面、強く納得してしまう部分もある。
確かに、今の今まで考えもしなかった事ではあるのだが……。
「私を狙っている犯人が一人だ……なんて、誰も言ってない」
私は独りごちるかの様に呟いた。
「そうです。つまり、今回のリダ様暗殺計画には、多数の共犯者が存在しているのです」
なんて事だ……。
「私は少し、考えが甘かったのかも知れないな……」
「そこまで落胆する必要はありません。リダ様は一人ではありませんから」
肩を落とす私に、アシュアは柔和に微笑んでから言う。
……そうだな。
アシュアの言葉には一理ある。
メイド服を入手するべく、何処かに走り去ってしまったユニクスを筆頭に……私には心強い仲間達が沢山いる。
当然、私の近くで微笑みを向けているアシュアだって、私を助け様と頑張ってくれている一人だ。
本当に有り難い限りだった。
「この暗殺者達なのですが……どうやら、この大陸だけではなく……否、むしろ西の大陸から斡旋されてやって来ている模様なのです」
「西の大陸から?」
「そうです……私達の調べによりますと、主に西の大陸で最大規模の都市……オーサからやって来ている模様ですね。詳細はまだ完全に把握し切れておりませんが、分かっている限りでは十数名はいる模様です」
「十数名? そんなにいるのか?」
一人だって大変だと言うのに……。
マジな話……どうなっているのか……?
予想以上に深刻な事態に、私は頭がクラクラして来た。
オーサは、トウキと世界を二分していると述べても過言ではない程の超大国だ。
トウキ帝国が、中央大陸で一番の大国にして最大の都市であるのなら、オーサは西側諸国を一纏めにしている、いわば連合国の中央国家だ。
西大陸の海岸付近にある五つの強国と連合する形で纏め上げ……政治・経済・軍事のあらゆる協同体を産み出した、驚異的な超大国でもある。
かつての歴史を紐解けば……中央大陸のトウキが周辺国と合併し、トウキ帝国として産声を上げる切っ掛けを作ったのも、この西側諸国が連盟を作り出した事だった。
百年近く前の話だが、大きな戦争へと発展した時……西側大陸からの植民支配を恐れた中央大陸の面々が一致団結した事で、現在のトウキ帝国が誕生したらしい。
尚、戦争の結果は痛み分けだったらしく……そこから五十年は冷戦状態にあったのだとか。
現在は、講和や和解も進み、国交も正常化した為、トウキ湾等からはオーサ国はもちろん、西側諸国産の様々な物が輸入されている。
……まぁ、五十年もいがみ合っていた仲とは言え、そこから更に半世紀経っている今となっては、互いに尊重しあって世界平和を願うパートナーと言う位置付けになっている。
なっているのだが?
実は、なんだかんだで、妙な劣等感と言うか……僻みの様な物もある。
それと言うのも……この百年で、中央大陸の国々が西側諸国よりも大きく発展してしまったからだ。
今から百年前までは、西側諸国の方が色々と発展していた。
それは現在でも決して引けを取っている訳ではない。
だが、圧倒的とまで言われていた西側諸国の力も、この百年でほぼ同じ水準になってしまった。
……否、むしろ上回ってしまった。
これが、どうにも面白くないらしい。
元々、西側には、かつて世界を掌握したと言う誇りの様な物があった。
美しい文化と、高い技術力……当然、他者を圧倒する武力等も当然の様に誇示しており、世界の覇者は西側諸国であると信じて疑わなかった。
……それが、現状は覆されたも同然にある。
実際問題……大昔は、冒険者協会の世界本部はオーサにあったらしい。
けれど、現在の本部はトウキだ。
ここから見ても分かるかも知れない。
当時は、世界の中心は西側だった。
正確に言うのなら、オーサの南西に位置するキートにあった。
世界は、このキートを中心に動いていた。
しかし……時間は流れる物だ。
万物は流転する物と相場では決まっている。
現在の世界情勢は、確実に中央大陸へと傾いていた。
故に……西側諸国連盟は、未だにトウキ帝国へと恨み節をこぼす事があるのだ。
私個人としては、西側諸国の人間は明るくて大好きなんだけどなぁ……。
個々としての触れ合いは最高なんだけど……政治になると、これが……ねぇ。




