真相究明の始まり【5】
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一時間後。
「……ったく、大悪魔のクセして、ゴキブリの事をまるで大魔王か何かを勘違いしそうな言い方してくれるとは……」
地味に不機嫌な私がいる中、朝食を取る為にリビングにやって来ていた。
「……はは。バアル様はどういう訳か? あの虫が世界一嫌いな物でして……決して悪気はなかったと思うのです」
ぶつくさとぼやく私に返答をしたのはアシュアだ。
見れば、既に朝食の準備をしているアシュアの姿がある。
そんな彼女の姿は、何故かメイド服だった。
何処かのカフェとかで見る様なアレではなく、普通に長いスカートのメイド服だ。
まぁ……見た目もそれなりに良く、気品も感じられる上に、機能性もあるからなのかも知れない。
けど、もはや自宅の家政婦さん状態になっている気もしなくはない。
……まぁ、特に否定する必要もないんだけどさ?
ついでに言うのなら、それなりに似合っている。
だから、私もつい笑みで言った。
「その服、中々似合っているぞ? やっぱりスタイルの良い美人は、何を着ても絵になるな」
「そうですか?……ありがとうございます」
軽く誉めた私の言葉に、アシュアもにっこりと笑みで返答して来た。
直後……後ろの方で、妙な波動をぶちまけているレズが、
「ぐぬぬぬっ! リダ様はメイド服が好みだったのか……こうなったら、私も急いで可憐なメイドにならなければっ!」
ドタドタドタッ!
純粋な勘違いをしてから、全力で何処かに行ってしまった。
どうでも良いけど、人の自宅で走らないでくれないか……?
そうは思ったのだが、面倒なレズが消えてくれたのだから、まずはヨシとして置こう。
さっきも述べているが、朝食の準備はしっかりと出来上がっていた模様で……私は、既に準備されていた席に腰を落ち着かせた。
「バアル様は……全身が悲鳴を上げる程の重症と、強い心の傷を受けたらしいので、今回はリダ様と私の二人で先に朝食を取って欲しいとの事でした」
アシュアはにっこりと笑みのままで言う。
けれど、心成しか? 少しだけ怒っている様にも見えた。
きっと、今の言葉が全てを物語っているのだろう。
くそ……ちょっとプロレス技を掛けただけじゃないか。
「そうか……でも、そうなると、朝に聞いて置くんだったな」
私は敢えて、バアルが受けた傷に付いて触れず……むしろ、話のベクトルを反らす形でアシュアへと答える。
実際問題、バアルがいじけた……もとい、朝食に参加しないのであれば、新しく手に入ったとされる三つの情報を耳にする事が出来ないからだ。
尤も……超重要な一件が、アレだったからなぁ……。
正直、ワンランク下の情報とやらも、聞くだけ馬鹿らしい内容なのかも知れない。
それでも、まだ聞いてもいない内から、しょうもない話と決め付ける訳にも行かなかった。
今の私には、確実に時間がない。
もしかしたら、今すぐにでも……私の意識を奪われかねない状況にあるのだ。
現状で考えると、どうやらその可能性はなさそうではあるが……既に意識を乗っ取られている危険性だって、全くのゼロではないのだ。
だからこそ、私は周囲の皆から敢えて遠ざかると言う選択肢を選び……そして、今もその状態を保持している。
……そう。
今の私は、正体不明の爆弾を抱えているかも知れないのだ。
だからこそ、一刻も早く対処しなければならない。
「新しく入手した情報であるのなら、私が全てを掌握しております。元を正せば私がバアル様に報告した内容が、そのままリダ様へと御伝えする内容であった筈なのですから」
「マジかっ!」
それは有り難いっ!
思った私は、ぱぁぁっ! っと、顔を明るくした。
「はい! 今回入手した情報は……何処まで聞いているのか存じておりませんので、最初から御伝え致します。まずは超重要項目が一つ」
「それはパスで」
真面目な顔になって言うアシュアに、私は即行で手を横に振った。
大悪魔がたじろぐ、恐怖のゴッキーッ! の話は、一度聞けば十分だった。
「そうですか……聞くも涙、語るも涙のスペクタクルな内容でしたのに」
どの口がそう言ってるんだよ……?
単なる台所の話を、どうやったらスペクタクルにする事が出来ると言うのか?
一度、コイツらの脳みそを割って見てみたい物だ。
どっちにせよ却下だ。
つまらない顔をしていたアシュアがいるけど、二度も下らない話を聞く耳はない!
「他、三件の重要な情報。こっちだけで良い」
「そうですか……仕方ありませんねぇ」
アシュアはため息を吐いて答えた。
どうしてそこでため息を吐くんだ? と、小一時間は説教してやりたい!




