犯人探しの始まり【18】
「当然、そんな物はございませんよっ! あれは、当方の手違いだったのですからっ!」
即座に手をブンブンと横に振ってから、バアルは必死の形相で叫んだ。
本当か……?
どうにも怪しい気持ちで一杯になっていた私。
そして、それはアシュアも同じだったらしく、
「その件に関しましては、私が騎士団長として厳しく吟味した上で、画像の削除を使い魔達に命じる予定でございます。リダ様もご安心ください」
私を安心させると言う大義名分を上手に利用する形で、バアルの秘蔵コレクションを全面的に見つける模様だ。
ここに関しては信頼しても大丈夫だろう。
「うむ、そこは頼んだ!」
「ま、まままっ! まって下さいリダ様! 私はちゃんと、誠意を持って資料の保存はしております! 疚しい事は何一つもしておりませんからっ!」
素早く頷いた私がいた時、更に動揺したバアルがひたすら焦って反論していた。
普通に無視した。
「それより、こっちが本題だな」
バアルの台詞を軽やかにスルーした私は、テーブルの上にまとめられていた資料に手を向ける。
……うむ。
誰が作成したのかは分からないが、素晴らしい出来映えだ。
……ああ、バアルか。
思えば、アシュアが作成している代物であったのなら、あんな着替え写真とか入っている訳がなかった。
どちらにせよ、今回はおかしな写真が紛れ込んでいる様子はない。
……てか、これが普通なんだけどな?
一通り、資料を見る。
内容は実に濃い。
まだ、そこまで時間が経っている訳でもないのに、驚く程の細かさで、しっかりと的確な情報を書いている。
ユニクスやフラウと一緒に名簿からリストアップした内容より、話にならないまで詳しい内容がちゃんと掘り下げられていて……諜報能力が極めて高いと言う事を、文面が物語っていた。
やばい……大悪魔の能力、凄すぎる!
同時に私は思った。
やはり、人間だけの世界よりも、もっと能力の高い者が沢山いるこの世界は、多種多様な交流が急務であると。
バアルにとって氷山の一角に過ぎない能力であっても、私にとって驚嘆に値するのだ。
これが、全ての面で全面協力する間柄になったとすれば、どんなに素晴らしいか。
別に武力的な面や軍事的な意味だけを持って述べている訳ではない。
これだけの諜報能力があれば、世の中に真実を素早く伝える事だって可能だろう。
逆に個人のプライバシーを防ぐ事だって可能になるかも知れない。
つまり、逆転の発想だ。
諜報能力に優れていると言う事は、逆に防ぐ方法についても優秀だと言う事になる。
今の能力を一つだけ取っても、世の中を発展させる事が十分可能になるのだ。
いつか、本当の意味で世界の全ての皆を友達と呼び合える仲になれたら……良いなぁ。
資料を調べながら、私はつい……こんな妄想を抱いていた。
その時だった。
「……っ!?」
私の顔が強張った。
「ど、どうしたのです? また、リダ様の恥ずかしいお宝映像が出現したのですか!?」
直後、アシュアが眉を釣り上げて叫んだ。
……まぁ、さっきと同じパターンなのは認めるよ。
けど、爆破する前にバアルがシリアスな顔をして私へと答えていた台詞の意味が、ここに来てようやく分かった。
正確に言うと、理解はした。
ただ、納得は出来ない……と言うのが正しい。
それと言うのも……だ?
「バアル……これは、何の真似だ?」
苦い顔になって言い……私は、問題を提起するかの様に、バアルへと一枚の紙を眼前に向けた。
「……そのままの意味です」
内容を見て、バアルは言う。
実に冷ややかに……淡々と。
そんな彼の眼前にあった紙に描かれていたのは……ユニクスの姿だった。
「これは、犯人のリストだ。私を殺す犯人のリストなんだぞ?」
「私に同じ事を言わせるつもりですか、リダ様? だから甘いのですよ? あなた様は」
バアルは、至って真剣に……それでいて、ポーカーフェイスにも似た静かな表情を淡白に浮かべて見せる。
「これに関しては、私も同意見ですね」
程なくして、アシュアが頷いた。
私はやるせない気持ちになってしまう。
「お前らはユニクスの本質を知らないから、そう言う事が言えるんじゃないのか?」
「その言葉を、そのままリダ様にお返しします。ヤツは今でこそ人間であり……神の天啓を受けた勇者になっておりますが、しかし一方で悪魔転生からの人間であると、調査結果が出ております」
「……いや、そうかも知れないが」
飽くまでも抑揚の無い声音のまま口を動かして行くバアルに、私は反論したい気持ちで一杯になっていた。
「主点として、もう一つ。犯人の特異能力も考慮されています」
幾ら何でもあんまりな物言いだと声を大にして言い放ってやりたい私に、バアルは飽くまでも客観的かつ合理的な内容を私に提示して来た。




