犯人探しの始まり【13】
ともすれば、この時にルミは勘付いていたのかも知れない。
この問題が解決する時まで、寮の自室に戻るつもりがない、私の気持ちを……だ。
……はは。
あの鈍感スペシャルなルミ姫に気付かれるとは、私もまだまだ修行が足りないな。
店の出口から外に出る最後まで、ルミは私へと視線を向けて、精一杯手を振り続けていた。
ルゥがいなかったら、意地でも一緒に帰ろうとしてたんじゃないだろうか?
そして、絶対に寮へと戻そうとしていたに違いない。
そう考えるのなら、ルゥの存在はかなり有り難い物になったな。
お陰で、ルミの危険度もかなり下がるだろう。
……今の私は、かなりの危険を孕む存在なのだから。
ルミとルゥの二人が店から離れた所を確認した私は、早速マスターにいつものヤツを頼む。
まるで呼吸をするかの様な勢いで、酒を頼んでいた。
許せ、ルゥ姫。
そこに酒場がある限り、私はミルクなど飲めない性質なのだから。
こうして、私は酒場で少しチビチビやった後、お勘定を済ませて外に出る。
……さぁて。
取り敢えず、久しぶりの『我が家』に帰りますかねぇ。
軽くノビをしてから言う。
ほんのり火照った頬を、通りに吹く春風がやんわりと冷ましてくれてる。
特に見る必要もなかった事だが、地下から外に出た私は、軽く周囲の情景を目にしていた。
理由などない。
ただ、ぼーっと見てただけだ。
下町にある商店街の一角とは言え、大都市トウキは沢山の人間が行き交う。
人間がここまで沢山いる街ってのも、何だか不思議な気分になる。
しかも、それが日常のヒトコマで……何ら当たり前過ぎて、深く考えた事もない。
あたかもそれは……空が青くて、雲が白い事であるかの様に。
生まれた時から、それはそうであり……余りにも当然過ぎて、謎めいた気持ちを欠片すら抱かない。
知的生命体が人間しかいない世界であるのなら、それで良いだろう。
正確に述べると、ここにも語弊があるのだが……しかし、なんやかんやで生態系の最上段に位置するだろうし、最大の繁栄を見せるのは自然の摂理でもある。
しかし、この世界は違う。
……そう、違うんだ。
人間と言う種族は、飽くまでもこの世界にいる知的生命の一つでしかなく、本来ならもっと色々な種族の知的生命が存在しているんだ。
例えば、キイロやミドリの様なドラゴンもいるし、パラスの様な巨人族もいる。
今は転生してしまって、完全な人間になってしまったが、転生前のユニクスは悪魔でもあった。
悪魔と表現したが、この表現も実際には適していない。
言うなれば、人間にとって害を成す存在であるから『悪魔』なのだ。
もっと極端に言うのなら、差別的な呼称でもある。
「……こんな世界は、やっぱり何処かおかしい気がするなぁ」
一つの街に数百万と住んでいるだろうメガロポリスでもあるトウキの街並みを見ながら、私はポツリと口にした。
やっぱり、私はやらないと行けない。
周囲に非難され……場合によっては糾弾される事になっても……尚、成し遂げるべきだ。
この世界に現存する、全ての存在・概念・生命。
その全てに、平等の価値観を共有する事が可能となる社会を。
不自然な程……けれど、周囲の人間達にとっては当たり前過ぎて悩む事もないだろう現状を見据えた私は、誰に誓う訳でもなく思っていた。
尤も……今の私と来たら、世界の社会を変える所か、明日の自分すら危ういと来ている体たらく振り。
情けない気持ちで一杯になるよ……はぁ。
「……はぁ」
心の中で吐息を吐き出し、実際に口からも青息吐息で重々しく嘆息する私が、肩を大きく落として歩を進めようとした……その時だ。
「今日もまた、一段と黄昏ておりますな……リダ様」
予想もしない方角から声がした。
見ると、そこには黒髪の少年が一人。
否、隣には同年齢と思われる少女もいた。
少女と表現はしたが、年齢的に言うのなら今の私と同じ程度だと思う。
少年の方も同じで、恐らく十五~六と言った所だった。
そして、初対面だと思う。
「……あんたは誰だ?」
口振りからすると、何処かで会ってる感じではあるんだが……何処だろう?
「ああ、この格好では分かり難いのかも知れませんね……私です。ベルゼブブです」
……はぃ?
ポカンとなってしまった。
コイツに関しては……まぁ、あれだ。
イリの話でその内出て来る事になるから……うーん、ネタバレしない程度に説明して置こうか。
ニイガで、またしても悶着が発生した時に、成り行きで戦う事になった。
……ここらは、三編のラスト辺りでも見せているから、少しは分かるかも知れない。
ともかく、今回の話はその後にある内容だから、必然的に……なぁ?
話がいきなり飛んでしまっているが、具体的な内容はイリ本編でやると思うので、興味が沸いた人は軽く見てくれたら幸いだ。




