犯人探しの始まり【11】
そう思った私は、素直に自分の知っている内容を公開するべく、
コトッ……
ポケットの中に入れていた水晶を、机の上に置いた。
水晶の大きさは、テニスボールを少し大きくした程度だったからな? 少しぎゅうぎゅうではあったけど、ポケットに入らなくもなかった。
「……これは?」
ポケットから取り出した水晶を見て、イリはそれとなく私に質問して来た。
確かに、これだけじゃ……良く分からないか。
「私の知人から貰った水晶だ。どう言う理屈で出来ているのか知らないが……どうやら、未来をある程度まで予知する能力を持っていたみたいでな?」
「……ほぅ」
淡々と説明して行く私に、イリは水晶を軽く見据えたまま興味を示した。
「それで? これをどうやると、予知する能力とか言うのになるんだ?」
「正確なやり方なのかは知らないけど、私はこうしてる」
聞かれた私は、水晶を手に取ると……心の中で念じてみた。
こないだの映像を見せて欲しい……と。
ポゥゥ……
私の思念に呼応する形で水晶が光る。
良く分からないが……本当に、どう言う仕組みでこうなっているんだろうか?
素朴な内容であった上に、その疑問を答えてくれる相手もいなかったが……しかし、ふと考えてしまう私がいる中、水晶からこの前の映像が出現した。
内容は……まぁ、言うまでもないだろう。
犯人なのだろう目線で映し出された……私が殺される映像だ。
「……エ、エグいねぇ……これ」
時間に直して約一分。
感覚的に言うのなら、かなり尺の短い動画の様な物だったそれを見て、ルミが顔を引き釣らせていた。
見れば、周囲にいる全員が顔を青ざめている。
ルミやルゥはもちろん、イリの左右に座っていたキイロとミドリの二人まで、顔から血の気が引いていた。
唯一、ポーカーフェイスを維持していたのはイリだけであったが……それでも、少しだけ眉が動いていた。
元から仏頂面しかしてない、無感情なヤツだったからな……そう考えると、さしものイリもこの映像を見て、多少の動揺は隠せなかった模様だ。
……しばらくして。
「……なるほどな」
納得混じりな声音を無機質なまま吐き出すイリがいた。
そんなイリは、映像を見終わってから息を吐き出し……やや悩む様な仕草を見せてから席の背もたれに背中をつける。
程なくして、
「この映像が、仮に予測映像だったとするのなら……時間はないって事だ」
「お前もそう思うか?」
「……ああ。間違いなく、ここ数日の内にケリを付けないと行けない内容だな……ったく」
舌打ち混じりになってぼやいた。
……ん?
数日の内……だと?
「どうして、そう言う答えになるんだ?」
「なんだよ? 気付いてなかったのか?」
不思議そうな顔になっていた私の問い掛けに、イリは不思議そうな顔になっていた。
「その映像にあった背景の花……ありゃ、藤だろ?」
「藤?……ああ、そうだったかも知れないな」
トウキの気候は亜熱帯に近い気候だ。
ここらの関係もあり、公園に藤を植える場所もある。
桜の木もあるが、藤が咲く場所も結構あって……まぁ、トウキにとっては春の風物詩でもある。
ただ、この藤は……ちょいと手入れが面倒らしくてな?
割りと面倒だと言う話を良く聞いていた。
……と、こんな事を頭の中で考えていた時、イリは私に言った。
「咲いてるんだよ……藤がな?」
……え?
イリの言葉を耳にして、私は目をパチクリとさせた。
咄嗟に、私は水晶へと再び念じて見せる。
そして、映像をもう一度見た。
注目したのは背景だった。
映像の後ろにあった藤は……満開だった。
「…………」
藤の花が、ここまで綺麗に……艶やかなばかりに満開となる時期……それは、まさに今!
正確に言うのであれば、あとニ~三週間程度過ぎれば、完全なる満開となり、良い目の保養になる事は間違いないだろう。
……つまり、それは。
「この映像は、早ければ二週間程度で起こる……って事か」
「下手したらもっと早いかもな……映像は一瞬過ぎて見えなかったが、満開であるとは限らない……取り敢えず、花が咲いていた事だけは分かる程度だ」
とどのつまり、二週間よりも早く起こりうると言う事か……。
「……くそ」
苦々しい顔になって吐き捨てる。
まだ、何も発見していないってのに。
このまま、私は映像の内容通りになってしまうのかよ……。
内心……それはそれで良いのかも知れないと言う気持ちも実はある。
私が死ねば、他の誰かが死ぬ様な事もなくなると思う気持ちもあるからだ。
けれど、それでは根本的な解決にはなっていない。
まして、そのまま殺されるなんて……悔しいじゃないかっ!




