犯人探しの始まり【10】
私は笑みを作ったまま、擬装も兼ねて被っていたキャップを再び深く被り直してから言った。
「すまない……邪魔したな」
ポツリと答えて……私は、その場を後にしようとした。
もしかしたら、今すぐにでも皆を襲いかねない状況だった私は、極めて危険な存在だ。
これ以上……皆に迷惑を掛ける事は出来ない。
そうなると……そうだなぁ……。
この調子だと、学園にいても危険である可能性があるな。
学園で、いきなり意識を乗っ取られて、私の意思とは関係なく暴れたりしたら……目も当てられない。
……はは。
これからどうしようか……。
そんな、途方に暮れてた時、
「……まてよ」
イリが私に声を掛けて来た。
「……まだ、私に用があるのか?」
キャップを目深に被り直し……クルッとみんなに背中を向けて歩き始めた所で声を掛けられた私は、そこで歩を止める。
「お前……これからどうするつもり何だ?」
「……さぁな?」
こっちが知りたい。
正直、これが私の本音だ。
……はぁ。
真面目な話、今日から何処で寝泊まりしようかで悩むよ。
いっそ、私が本来住んでいた自宅に戻ろうかな?
……ここからなら、そこまで遠くないし。
けど、半年以上は戻ってなかったから、凄い事になってそうだなぁ……くっそう、面倒だ!
……と、こんな事を、それとなく考えていた時だった。
「お前はまだ、完全に催眠を掛けられているとは限らない……これは、飽くまでも可能性の問題だ」
両腕を軽く組みつつ、イリは言う。
答えたイリの表情は、心成しか? 仄かにやんわりと微笑んでいる様に見えた。
「てか? だな? もし、お前が確実に相手の言う通りに動く状態になっていると確信していたのなら、他の誰が何を言ったとしても、俺がお前を拘束してた……つまり、そう言う事だ」
「……そうな」
イリの言葉に、私は短く頷きだけ返した。
言いたい事は分かる。
立場が逆であるのなら、私だってやりかねない。
そして、確実ではないのなら、まだ拘束はやらない……と言う部分を含めて、だ。
けれど、イリ?
それはお前にも言える事じゃないのか?
きっと、イリが私を敢えて避ける形で行動を取っていたのは、この事実をなるべく話さないで置こうと考えていたからなんじゃないかなと思う。
ただ、絶対に話さないでいようと思っていた訳でもないんだろう。
結果的に言うタイミングが生まれてしまった時は言おうか……程度の感覚だったんじゃないだろうか?
どちらにせよ、言い渋っていた事だけは間違いないだろう。
この話をしたら……確実に私は、みんなの前からいなくなると考えていたからに違いないのだから。
理由は実にシンプル。
立場が逆なら、きっとイリも同じ事を考える。
だからだろう。
「……どうでも良いが、勝手な真似だけはするなよ? お前は俺達がしっかりとサポートしてやる。だから、普段通り学生しててくれれば、それで良いんだ」
イリは、私の図星を突く形で口を開いて来た。
間もなく、ルミもイリの言葉に賛同する形で声を放つ。
「そうだよリダ! まだそうと決まった訳じゃないし、もしそうだったとしても……それでリダがみんなから離れるとかだったら……悲しすぎるから」
言い、ルミは目線を下に落とした。
……はぁ。
本当……今の私……格好悪いなぁ。
つくづく思う……情けない、と。
だけど、そんなに情けなくても……格好悪かったとしても……。
私の手でみんなを殺すなんて悲劇だけは、絶対に回避しないと行けないんだよ。
そうと答えたかった私だが、ここでストレートに物を言ったのなら、ルミはもちろん、周囲にいる全員が猛反対するだろう。
「……はは。そうだな。頼りにしてるよ」
私の思考とは真逆の台詞を口にした。
尤も?……私の考えは、既に決まっているんだけどな。
「……そう? それなら良いけど?」
答えた私に、ルミはちょっとだけホッとした顔になっていた。
ズキンッ!……と、良心が痛んだ。
……くそ。
真面目な話、どうしてこんな事になってしまったんだろうなぁ……?
そんな……どうしようもない罪悪感に苛まれ、やるせない切なさで心が充満していた時、イリの口が動いた。
「一つだけ気になる事がある……リダ? お前は、自分が狙われている事に、どうやって気付いた?」
「……何?」
「そのままの意味だ。答えろ……こっちだって、それなりの情報をお前に与えたんだ。お前だって、俺達に情報を出しても文句はない筈だろう?」
……まぁ、確かに。
現状の私は、一方的にイリ達から教えて貰っただけだ。
そうであれば、私が知っている事柄も、イリ達に教えるのが筋だろう。




