犯人探しの始まり【8】
ああ、もう……良く分からないけど、ミドリの立ち位置と言うのはボケ担当のポジションなんだろうか?
特に理由もなく答えを出していた私がいた所で、ルゥが私へと声を出して来た。
「リダさんに敢えて言わなかったのは、今回リダさんを狙っている首謀者の特徴もあったのです……どうやら、相手の能力を意のままに操る能力を持っているらしくて……」
意のままに操るだと?
そんな事が出来る物なのか?
ルゥの話を聞き、怪訝な顔になっていた私がいた所で、ルミが補足する形で声を出した。
「……そうなんだよリダ。もしかしたら、リダが操られる側になってしまう危険性を考えて、出来るだけリダを巻き込まない様にしよう……って、イリ達と話をしてたの」
「つまり、私の身を案じてくれた……と、言う事か?」
そうと答えた私がいた時、ルミとルゥの二人は即座に首を縦に振った。
……ちょっと、涙が出そうになった。
同時にやっぱりルミは信頼に値すると、心から思えた。
……あ、今はルゥも同じになるのか。
どちらにせよ、少し心が暖かくなった。
「ありがとうな……ルミ、ルゥ。私の事をそこまで気にしてくれてた何て……本当に思わなかったんだ」
精々……最近のルミは付き合いが悪いなぁ……程度だった。
考慮の足りない考えだったよ……と、反省然りだ。
「ルミやルゥの二人が言った通りだ……今の所、詳細はかなり不明瞭な部分があって、正確な所はブラックボックスにあると言わざる得ないが、どうやら今回の標的には特殊能力があるみたいでな? 対象となる相手の意思を自分の物にする事が出来るらしいんだ」
イリは真剣その物で私に説明して来た。
ワンテンポ置いて、キイロが続け様、私に説明して来る。
「相手の目的は、リダさんだから……リダさんの意識を乗っ取る能力をもし持っていたとしたら……リダさんがどんなに強い存在だったとしても、簡単にリダさんを暗殺する事が出来る。意識さえ奪う事が出来たのなら、あとはリダさんが勝手に自分で死ねば良いだけ」
「……そう言う事か」
キイロの言葉に、私は短く頷く事しか出来なかった。
全く以て、その通りだった。
要は、相手の術中に嵌まってしまえば、密室犯罪だって容易だと言う事だ。
完全に密閉された無人の状態であったとしても、私は相手に意識を乗っ取られている訳だから、犯人に自殺しろと言われた場合、本当にやってしまうだろう。
まさに究極の暗殺術にして、完璧な殺害方法だ。
仮に密室であったとするのなら、もはや証拠も何も残らないだろう。
遺書でも一筆残した上で、本当に自害などした日には、単なる自殺で終わってしまう案件だ。
こうならない為にも、イリ達は敢えて私との関わりを絶っていたのだろう。
他方、それでいて不思議でもある。
私なりに感じた謎は、主に二つ。
まず、一つ目。
「私が危険だと言う事が分かったが……それなら、その事実をどうしてすぐに教えてくれなかったんだ?」
この疑問に素早く答えたのはイリだった。
「お前がどの程度の情報を得ていたのかは知らないが……自分が殺されると明確に事実を把握させたら、お前はどう動く?」
「……まぁ、犯人を捕まえ様とするな」
現に、今の私は犯人を捕まえ様と躍起になっていた。
「勝手に動き回られて……その上、向こうの策に嵌まられたりしたら、困るのはコッチだと言う事だ」
答えたイリは、言ってから嘆息した。
顔では言っている。
餅は餅屋だ……と。
確かに、イリは暗殺者を殺す事を仕事にしている、言わばアサシンキラー的な側面もある。
別に暗殺者ばかりが対象ではないが、イリ的に言うのなら専門の範囲なのだろう。
つまり、この手の事件を何回も経験しているプロだと言いたい。
他方の私は、当然ながら専門外も良い所だ。
よって……イリからするのなら、私が犯人探しと言う名目で勝手に動き回るのをヨシとしない。
むしろ、勝手な行動を控えて欲しいとさえ思っているのだろう。
だから教えなかった……と、こうなるのか。
「それであっても、少しは教えてくれても良かったと思うんだけどなぁ……」
「相手が、お前の意識を乗っ取る様なヤツじゃなかったのなら俺だって考えたさ……が、それだけの反則をして来るとなれば話は別だ。場合によったら、俺やその周囲にいる連中をお前が殺すかも知れないからな? 洒落になってないんだよ……」
…………。
私の思考は真っ白になった。
思考を盗まれて、相手の意思で動くと言う事は、相手の操り人形になると言う意味だ。
当然、相手が殺せと命じれば、私は殺してしまうのだろう。
例え、相手がルミやルゥ……キイロやミドリであったとしても、だ。
そう考えると、なんて恐ろしい能力なんだろう……。




