犯人探しの始まり【5】
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学園から少し離れた場所にある、下町情緒溢れる商店街。
私が育った町ではないが、それでも同じトウキと言う意味では地元の町と述べて良い。
大陸で一番の巨大都市トウキは本当に大きな街なので、地元と表現したとしても見慣れた街であるとは限らない。
……とは言え、ここらは大人になってから仕事で何回か来ている分、見慣れてはいる。
まぁ、今の私は学生に戻っている為『大人になってから』と言う表現を使うのも珍妙な話ではあるんだけどな?
何にせよ、多少の土地勘があるのは嬉しい限りだ。
……と、そんな商店街の一角を、私は私服姿で歩いている。
ちなみに私一人だけだ。
爆破した事で、フラウは完全に怒って帰ってしまった。
結果、ユニクスと二人だけと言う状況になってしまった為、身の危険を感じた私はユニクスを最大火力で再び爆破しておいた。
そして、完全に卒倒したのを見計らい……逃げる様に寮の自室へと戻った私は素早く私服に着替え、足早に商店街へと向かった。
目的はもちろん、ルミの行動を尾行する事だ。
一応、気にはなっていたので、ルミにはちょっとした仕掛けをして置いたのだ。
抽象的に述べると、発信器の様な物をルミに付けて置いたのだ。
正確に言うのなら、ルミの現在地を知る事が出来る魔法を、予め掛けて置いた。
教室で一緒にいる時……こうぅ……チョイチョイとな?
魔法が発動すると、相手の現在地が頭の中に出現する。
これまた抽象的な感じで物を言うが……頭の中に地図の様な物が出現し、その地図にルミの現在地が記される。
私は、この記された現在地へと向かえば、そこにルミがいる事が分かる……と、こんな具合だ。
それにしても……ルミの奴……どうして、こんな所に来てるんだろう?
謎ではあった。
確かに、ここは学園の近所とも言える普通の商店街だ。
もちろん、校則違反をしている訳でもないし、取り立て特別な訳でもない。
私だって、何か物入りの時は商店街で買い物をする時だってあるし、その時はやっぱりこのエリアへと足を向ける。
けれど、それだけの理由であったのなら、私に一声位は掛けてくれても良い物じゃないだろうか?
毎回そうしろと言う訳でもないし、たまにはそう言う事だってあるかも知れないが……それが、何日も続くとなれば、意図的にそうしている様にしか見えない。
……本当、何が起こっているのやら。
ルミの行動は、全くの謎でしかなかった。
「……ん? いたな」
ルミの現在地を、それとなく確認しつつ歩いていた所で、私はルミらしき人物を発見する。
隣を歩いているだろうルゥの姿を見る限り……間違いではなさそうだ。
よし、尾行開始だ。
一応、準備して来たキャップを深く被り、私はルミとルゥから一定の距離を保った状態で歩いて見せる。
見る限り、ルミとルゥの様子はいつも通りだった。
陽気におしゃべりしながらも、前を歩いている……そんな感じだ。
しばらくすると、二人は……。
「……?」
私は眉を捻った。
二人が進んだ先にある所……それは、何気に私にとっても馴染みのある建物だった。
「……なんで、ルミとルゥの二人が?」
一応、ルミは一回だけ行った事があった。
その時、酔った勢いで、まさかの超炎熱爆破魔法をかますと言う大惨事が起こっている。
……そう。
以前、ルミが酔っ払った場所だ。
その後、チズさんとジャンの二人が暗殺目的で私達とコンタクトを取り……最終的には逆に二人を庇うと言うおかしな事態へと発展して行くのだが……ここらは、前の話を読み直してくれれば幸いだ。
そこはさて置き。
ポイントはそこではない。
問題は、どうしてルミとルゥの二人が、そこに行く必要があったのか……だ。
二人が入った建物の地下一階……そこは、小さな酒場だ。
現在の私も、たまにではあるのだが顔を出している酒場でもある。
現在は学生の身だからなぁ……。
実際はれっきとした社会人である筈の私だと言うのに、結局は学生を続けていると言う、地味に面倒な状況下に置かれている。
よって、大っぴらには飲めない!
ここらの関係もあって、今でも少しだけ厄介になる時があった。
あったんだけど……だ?
「おいおい……まさか、本当に危ない橋を渡ってないだろうな……?」
私にとって秘密の酒場でもあるそこは……まぁ、一部の冒険者しか入らない様な場所だ。
場合によっては、盗賊の類いとかも利用する。
つまり、そこはかとなく胡散臭い場所でもあった。
こんな表現をしたら、酒場のマスターが怒ってしまいそうだけどな?
けれど、平凡な学生が入る様な場所ではないんだよ。
ルミ……お前、本当にどうしたって言うんだよ?
不意に私の胸中が胸騒ぎを覚えた。




