新学期の始まり【13】
「視界と思われる映像に、チラッとではあるのですが黒い髪が見えます……すると、犯人は黒い髪の男性もしくは背の高い女性と言う事になりますね。これで音声があればもっと詳しく予測する事が可能なのですが……そこは所詮、アインの邪神な水晶。最初からそこまで期待はしておりませんでした」
ユニクスは、両腕を軽く組つつ答えて行く。
最後の部分は、少しでもアインをディスりたかったのだろう。
……こう言う部分は、もう少し何とか出来ない物かと思う。
「私としてはアインに感謝したいよ……少しでも私を助けたいと、こんな能力を水晶に封入していてくれたんだからな」
そこで、そこはかとなくアインをフォローする感じの台詞を返すと、
「んなっ! リダ様は騙されておりますっ! そこは絶対にあのアインを信用しては行けない場面です! そして、私との目眩く愛のセレナーデをっ!」
「爆発したいのか?」
「すいません、爆発は勘弁して下さいっ!」
ユニクスはソッコーで頭を下げて来た。
この、おかしなクセと言うか、妙な性格さえ無ければ本当に完璧なんだがなぁ……。
やはり、完璧な人間など存在しないと言う事なんだろうか?
そこは……多分、現状だと永遠の謎になってしまうだろうし、素朴過ぎて悩む時間すらもったいない気もするから、考えるのはここまでにして置こう。
「ともかく、映像は見終わった事だし……後は対策だが、ユニクスの意見を聞いても構わないか?」
「私の意見を所望されるのですか? そうですね? これからまずは私と一緒に食事を取り、私と一緒に会話をした後、私と一緒に子作りに励むと言うのはどうでしょう?」
ドォォォォォォォンッッ!
真面目に聞いた私がバカだった!
返事を口で出すのも面倒だった私は、その場で爆破魔法を発動させた。
自室だったので、部屋が爆発で壊れない程度にしておいた。
……まぁ、少し煤けたけど……前回みたいに部屋その物が爆破されるよりは全然マシだった。
尤も……火力が足りない分、ユニクスのダメージも大した事がなかったのだが。
「今日は幾分か優しい攻撃なのですね……これは、子作りしても良いと言う遠回しな甘露のサインなのではっ!?」
「よぉ~し、ユニクス! 外に出ろっ! 今から私の発動可能な補助スキルを駆使して、最大級の火力でお前を葬ってやるからっ!」
「いやいやっ! リダ様っ! 本当、謝りますから! それだけはご勘弁をっっっ!」
私とユニクスの下らない悶着は、ここからしばらく続いた。
●○◎○●
一時間後。
女子寮に戻り、私服に着替えた私は、寮の食堂で偶然顔を合わせたフラウと一緒に昼食を取った後、近所にある公園へと向かった。
余談だが、ユニクスも一緒だった。
くそぉ……さっき、外に出た時に超炎熱爆破魔法をぶつけてやったんだが、もう回復してやがる。
最近は、超炎熱爆破魔法ですら、直撃を受けても直ぐに回復するユニクス。
明らかに魔導耐性が付いているな。
それと、上位スキルでもある龍の呼吸法【極】を、どう言う訳か習得していたのも大きいだろう。
習得した方法は知らないが……確かに、あのスキルを発動すれば、よほどの瀕死にでもならない限りは数分で傷が癒えてしまう。
自分で使っている時は特に考えもしなかったスキルだが……そう考えると、凄い脅威的なスキルなんだな。
「ねぇ、リダ?」
近所にある公園へとやって来た所で、フラウが実に奇妙な者を見る様な目で私を見た。
そこから口を開く。
「どうしてこんな所に来たの?」
「一応、なんとなく……かな? もしかしたら、手掛かりになる様な物があるかも知れないと思ってな?」
「いや、ないでしょうよ……」
私の言葉に、フラウは呆れ返る。
理由は実に簡素な物だった。
「これから起こったとしても、今の時点では未来の話なのに、痕跡も何もある訳がないでしょう?」
「……いや、それはどうだろう?」
呆れ返るフラウに否定の声音を返したのはユニクスだった。
「……どうしてよ?」
フラウは理解に苦しむと言わんばかりだ。
一応、朝に教室で水晶の話をしていて……そこから、寮の食堂でその後に起きた話も色々としていた為、事情は飲み込めているフラウではあったが、今やっている事はどうしても不合理だと思っているのだろう。
言いたい事は分かる。
何故なら、まだ起こってないからだ。
起こってもいない場所に向かって、事後の痕跡を探ろうとしているのだから、こんなにも滑稽な事はない。
そもそも、時間は非可逆的な物だから、こんな行動を取っている時点で滑稽極まりない話ではあるんだけどな。




