新学期の始まり【10】
「ともかく……妙な出世欲にまみれた連中については、後で年齢制限を加えたり、下心がなく純粋に冒険者としての能力を向上させたい者だけに絞れる工夫をしたりして対応するにしても……お前は、ここで何をやってたんんだ?」
何故か図星を突かれた私は、そこはかとなくお茶を濁す形でユニクスへと尋ねてみせた。
私的な予測からするのなら、ただの偶然に過ぎないと思っていたのだが、
「リダ様が心配だったので、ちょっとだけ様子を見に来ておりました」
「私が心配?」
どうやら、普通に私の事を気に掛けていた模様だ。
相変わらず心配性なヤツだな。
「私は、あんなチンピラ紛いな連中に何かされる程、ヤワな存在じゃないぞ?」
「それは十分存じております。だから、私としても大丈夫であると思ってはおりましたが……」
そこまで答えたユニクスは、真剣な眼差しを私に見せてから、再び口を開いて来た。
「リダ様が……己の死を示唆する映像を、邪悪な水晶球から見たと言う話を耳にしたものですから」
「いや、邪悪じゃないし」
ただ、どうしてそんな台詞を口にして来たのかは分かった。
アインが私に残してくれた物は、根本的に邪悪だと言う考えだからだ。
ここらに関しては、もうユニクスの基本概念なのだろうから……まぁ、変える事も出来ないのだろうし、そこまで厳しく言う程の事でもない。
……正直に言うのなら、少しは反論したい所ではあるんだがな。
何にせよ、取り敢えずそこは置いておこうか。
「本当、つくづく心配性だな」
「私の視点からするのであれば、リダ様が楽観的過ぎると思うのですが……」
苦笑する私に、ユニクスはやや私へと助言する様な形で声を返して来た。
本当……何と言うか、過剰な位、私を心配してくれている。
ありがたい気持ちはあるんだが……そこまで気に病む姿を見ていると、ユニクスは生きてて疲れないだろうか? と、余計な事を考えてしまう。
どちらにせよ、ユニクスはビックリする位、私に対しては神経質になる傾向にある。
ああ、私だけではないか。
フラウとかにも同じ感じだ。
どちらにせよ、やっぱり過保護だと思える。
「アインは邪悪ではありますが……事、リダ様を護ると言う一点に置いては、共同戦線を張れるだけの部分があります。ここを加味するのであれば、アインは確実にリダ様へと危険を知らせて来たのではないかと思うのです」
「そこは、私も思っている」
真剣その物の眼差しで、熱意さえ感じる声音を吐き出して来るユニクスに、私も真顔で応じた。
同時に……胸が熱くなるのを感じる。
今日は散々だったから、尚更感じてしまう。
やっぱり、人間の優しさってのは良いよなぁ……と。
これで、相手がレズじゃなかったのなら、もっと良かったのに。
「リダ様……まぁ~た、余計な一言を心の中で考えておりませんか?」
「そ、そんな事はないぞっ!」
……てか、ユニクスは本当に新しい能力にでも目覚めたのか?
割りと本気で、そんな事を考えていたが……今は、この様な素朴な疑問を考えている場合ではなかった。
「それより……アインのヤツが教えてくれた事だけど、恐らくあれは私の近未来中に起こり得る『可能性のある』未来だ」
私は神妙な顔で言う。
わざわざ、こんな回りくどい言い方をしたのは他でもない。
あれは、予告であり確定ではない。
仮に、水晶が示した物がアインの能力であったとしても、やはり確定ではないのだ。
しかし、それでもユニクスとしては心配の種である事には違わない。
「だからと言って、それを楽観したまま見過ごすと言う訳にも行かないでしょう……まして、折角アインが忠言する形でリダ様に映像をお見せしたのです。ここは何らかの対策を練って置くのが上策かと」
「まぁ……そうな」
けれど、未来に起こる……と言う一点しか、分かっていないと言うのに、どんな対策を練れば良いのか。
両腕を組みながらも悩む私がいた所で、ユニクスはやんわりと微笑みながら答えた。
「あらかじめ、犯人を断定して置くと言うのはどうでしょう?」
「……は?」
ポカンとなった。
いや……それは、かなり無理がある話だと思うんだが……?
「その映像は、もう一度見る事は可能ですか?」
「うん?……どうだろう? 実際に考えてもいなかったから、出来るかどうかはやって見ないと分からないな」
ユニクスの質問に、私なりの答えを返して見せる。
正直、最終的には自分が死んでしまう……しかも、かなり凄惨な死に方をする映像なんて、二度と見たくもない代物ではあった為、アレをもう一度確認すると言う考えが、最初に思い付かなかった。
だが、ユニクスは言うのだ。
「もし、もう一度、その映像を見る事が出来たのなら、犯人の手がかりとなるヒントが存在している可能性があります」
……真剣さを全く変える事なく答えたユニクスに、私は納得せざる得ない状態になっていた。




