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新学期の始まり【6】

 どちらにせよ、最初の挨拶なんて大体の奴はそこまで覚えていないと思う。 

 まぁ、私も適当に無難な言葉でも考えて置こうか。


 そんな事をぼんやり考えつつ、みんなの自己紹介を頬杖付きながら耳にしていた時、フラウの自己紹介が始まった。


「えっ……と、フラウ・フーリです。趣味はお菓子とか作るのが好きですね……こっちに来てからは主に、食べてばかりですけど」


 軽くジョークを交えて言うフラウ。

 これは失笑を食らうかなと思ったんだが、そうでもなかった。

 むしろ、近くにいた男子にはウケが良かった。


 ……くっ!

 フラウの奴……やるじゃないかっ!


 そこはかとなく、あざとさも感じる(フラウも言ってたけど、確かに私はフラウが菓子を作っている所なんか見た事がない)地味に可愛さアピールな自己紹介ではあったが、それでも周囲の面々には好印象を与えた模様だ。


 一部の男子とか、近くにいた友人なのだろう他の男子生徒へと、


「フラウさんって、成績とか良くて真面目で固い感じの人かと思ってたけど、意外とそうじゃないんだな」


 なぁ~んて感じの言葉を出していた。

 しかも、この言葉にしっかりと相づちを打つ友人男子。


 ……ぐ、ぐむぅぅぅっ!

 や、やはり第一印象って言うのは大事だよなっ!


 さっきまでのやる気のなさはどこへやら。

 私の感情は、ここで大きく躍動を覚える。


 しかし、困ったな……。


 まさか、私も作った事のないお菓子作りを趣味にしてます……とかって、完全な二番煎じを口にする訳にも行かない。

 しかしなぁ……別に可愛い趣味とかないなぁ……。

 相手をぶん殴る事は誰にも負けません!……とか言ったら、例えウケ狙いでもドン引きだろうし……。


 うーんうーんと、悩みのツボにまっていた私が、机の上で頭を抱えつつも、自己紹介の文言をあれこれ試行錯誤していた頃、ルミの自己紹介が始まった。


「ルミ・トールブリッジ・ニイガです! ご存じの方も多いかも知れませんが、ニイガ王国の王女してます……ですが、ここに在籍している以上は、皆様と同じ普通の生徒でしかありませんので、どうか気兼ねなく声を掛けてくれたら嬉しいです!」


 おおっっ!

 ……って、感じのどよめきが起こった。


 何より、笑顔が眩しかった。


「ルミさんは、やっぱり可愛い……流石はお姫様って感じだよな」


「だよなぁ……あんな可愛い子と付き合えたら、人生バラ色が気がする……」


「分かる! 本気で分かるよっ!」


 話を聞く限りだと、どこかのアイドル状態だ。

 まぁ、高嶺の華と言う意味では同じかも知れないんだけどな。


 どちらにせよ、周囲の印象はこれでもかと言わんばかりに良かった。

 もう、これで周囲の生徒の友好度もうなぎ登りだったに違いない!


 くぅ……お姫様……恐るべしっ!


 えも言われぬ衝動を、心の中一杯に抱え込んでしまった私がいる中……気付けば順番が私の番に回って来た。


 はぅわっっ!


 ど、どうしよう!

 フラウやルミの自己紹介とかを傍目で見ていたら、自分の文言が思い付かなくなってしまったぞっ!


 思わず、固唾を飲む。


 こ……こうなったら、アドリブでなんとか乗り切るしかないっ!


 一念発起する形で、私は席から立ち上がった。


 その瞬間、周囲の生徒達は全員が私へと注目し始めた。

 え?……なんですか? このおかしなプレッシャーはっ!?


 ルミもフラウも、こんなプレッシャーの中で、あんなにニコヤカな笑みを作っていたと言うのか?

 お、落ち着け……落ち着くんだ……私っ!


 そ、そうだ!

 ま、まずは笑顔だっ! 笑顔が一番大事ではないかっ!


 思った私は、即座に笑顔を作った。

 しかし……余りに強引かつ、必死に作ってしまった為、かなり不自然な笑顔になってしまった。


 そうこうしている内に時間が無駄に流れてしまう!

 気付けば、一分近く、私は何も言わずに席を立つだけと言う、おかしな状態に陥ってしまった。


 何やってるんだ、私わぁぁぁぁっ!


 この時の私は……もう、穴にあったら入りたい気持ちで一杯になっていた。

 ともかく頭が真っ白になっていた。

 落ち着けとかって、自分に対して何回も叫んでいる!


 しかし、落ち着けと心に念じれば念じる程、心がカオスになってしまうのも事実であった!


「えぇと……リダさん? 自己紹介なのだから、黙っているだけでは行けないと思うのですが……?」


 程なくして担任のリーナ先生が口元を引き釣らせてから答えた。

 顔では言っている。

 あなたは、こんな簡単な自己紹介も満足に出来ないのですか?

 ……と。


「は、はいっ! すいまふぇんっ!」


 慌てて謝った私は……思いきり噛んでしまう。


 ドッと周囲に笑い声が響いた。


 くっそぉぉぉっ!

 こんな恥辱は久しぶりだっっ! 

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