新学期の始まり【2】
もしかしたら、他にも重要な何かが隠されているのかも知れない。
「うぅむぅ……」
眉をよじって、手にした水晶球を凝視した……その時だった。
ポウゥゥ……
いきなり水晶球が光った。
まるで、私の意思に呼応したかの様なタイミングで光る。
「……これは……?」
ハッキリ言って、全く分からない。
なんらかの魔力的な物を感じるので、魔法の類いである可能性は高い。
しかし、頑丈に頑強を足してもまだ足りないまでの驚異的な耐久性を誇っている時点で、なんらかの魔法が施されているのだろうから……単純に頑丈にさせる為の魔力を、私が感じているだけかも知れない。
その真意は、今だ謎のベールに包まれている。
アイン……お前は、私に何をさせたいんだ……?
私の事を、本当の意味で命を懸けて守ってくれた、前世からの幼馴染みだけに、私になんらかの危害を加える様な魔法を封入して来るとは予想出来ないが……果たして?
全く見当も付かない、謎の光が水晶球から放出されて行く中、
「な……なんだ、これ?」
水晶球を覗き込むと、そこに映像の様な物が出現している事に気付いた。
……驚いた。
まさか、この水晶に、こんな能力が隠されていたなんて。
映像の中に出現していたのは……私だ。
うむ、間違いない。
ただ、映像を見る限りで……そこに映っているのは私だけだった。
これは、誰かの視点なのだろうか?
実際の所は判然としない部分も間々あるが……恐らく誰かの視点を映像化した物だと思われる。
けれど、一番の問題はそこではない。
映像の中に映っていた私は、ボロボロになっていた。
あちこちに傷を作り……切り傷だけではなく、打撲の跡までつけていた。
見事にやられてる感じだ。
一体……映像の私は、どんな攻撃を受けたと言うのだろう?
視点からすると、この映像を映し出している張本人と戦闘をした事で、大ダメージを受けている様に見受けられる。
そこは分かるんだが。
「なんだよ、これ?」
映像の内容を経験した記憶が、今の私にはなかった。
それにしては、かなりリアルな映像だ……まるで本当に起こったかの様な臨場感がある。
そして、やけに生々しい。
本当に、この映像は何だって言うんだよ?
つい、苦い顔になって私は胸中でのみぼやきを入れた。
それと言うのも……映像の中の私は、無惨なばかりに一方的な攻撃を受けていたからだ。
……映像の中にいる私は、どうして反撃をしないのだろう?
出来ないのか? やらないのか?
「……分からないな」
誰に言う分けでもなく呟いた……その時だった。
「……っ!」
私の顔が凍り付いた。
映像の中にいた私は……その瞬間、腸を撒き散らす形で腹を切られ…………絶命したからだ。
●○◎○●
朝から縁起でもない映像を見る羽目になってしまった……。
本当に、アレは何だったと言うのだろう?
「……うーむぅ」
両腕を組み、唸り声を上げる。
しかし、答えは出ない。
予測する事は出来る。
だが、飽くまでも予測だ。
確たる明確な証明がない限り、私が取れる事は憶測で判断する事しか出来ない。
正直、憶測だけで物事を判断すると、ロクな目に遭わないので、余り考えたくはないのだが……現状の情報だけを考慮するのであれば、それだけしか私には選択肢は存在しないのだ。
……かと言って、無いものねだりをしても始まらない。
そうなれば、多少なりとも何らかの予測を自分なりに立てて置く事も必要になって来るだろう。
その思考が、吉と出るか凶と出るかは……やっぱり分からないのだが。
ともかく、だ?
まずは、あの映像が何であるのか? せめて予測だけでも考えて置こう。
私の推測から察するに……あれは、私が近未来に訪れる事になる『危険性のある未来』なのではないかと考える。
根拠として、アインには予見する技術が存在していた。
これは、百%ではない物の、結構な高確率でそうなってしまうだろう未来を見る事が出来る能力だ。
未来と言う物は、不確定要素の塊と言える。
そうなる事は間違いないとされる物であっても、それはまだまだ結果ではなく仮定である為……絶対ではないのだ。
絶対にこうなるとは限らない不明瞭な要素が1%でもある限り、それは100%である事は有り得ない。
アインの持つ予見も、これと同じ事が言える。
簡素に言うのなら、可能性の高い未来を見る事は可能だが、それが現実として必ず起こる訳ではないのだ。
さて、ここで話を戻そう。
アインは、この未来で起こる可能性のある物を予見出来るスキルを所持していた。
つまり、あの水晶には、なんらかの形でアインの持っているスキルを継承する事が出来たのではないか?……と言うのが、私なりの推測だ。




