こうして実技試験は鬼門となった【18】
「私も、偶然リダと言う名前ではあるんだが……きっと、その……メイさんが言う『リダお姉ちゃん』とやらではないとは思うぞ?」
「……そう……ですよね」
メイは少しがっかりしているかの様な顔になっていた。
もしかしたら……と言う感じがあったのかも知れない。
……そうだな。
時が来れば、その内……話をする時もあるのかも知れない。
今は、それで良しよしよう。
そんな事よりも……だ?
「選ばれた特待生の中でも一位の成績とは……本当、流石は拳聖って所かな? 本当に、お父さんは喜んでいると思うぞ?」
私は素直にメイを誉め称えた。
……うん、ここはきっとお父さんが誰よりも誇らしいと思っている筈だ。
この辺は色々とあった見たいでさ?
まぁ、なんてか家庭の事情ってヤツだ。
「……えと……はい。凄く喜んでくれると思います」
「そうだな……じゃあ、始めようか」
少しだけキョトンとした顔……何かに気付いた顔を見せていたメイだったが、私の声を聞いた所で顔色を変化させた。
同時に、
「……むぅ」
物凄い重圧が、私にやって来た。
見えない気迫と言うか……闘気と言うのが正確なんだろうか?
やばい……レベルが違う。
「成長したな……メイちゃん」
思わず、ボソッと口から出てしまった。
こんな事を言ったら、流石にバレそうな気がしなくもないが、バトルに集中し始めたからか? 私の台詞は耳に入らなかったらしい。
「いきますっ!」
ドッッ!
……マジか。
二位の子とは、雲泥の差だ。
これ……もう、メイちゃんだけ違う枠で良いんじゃないだろうか?
一瞬で私の前にやって来たメイは、次の瞬間には私の展開していた透明の防御壁を破って行く。
まだ、補助スキルも何も掛けていないって言うのに……これか。
「凄いな、何かの能力上昇スキルでも発動させている見たいだ」
笑みで答えた私がいた頃、
「予め、友達に補助魔法を掛けてもらいましたから!」
何それ汚い!
後で聞いた話ではあるんだが……別に補助魔法を掛けてはいけないと言うルールはなかったらしい。
ついでに言うと、他の特待生も、何人かは最初から補助魔法を掛けた状態で試験を受けていたんだとか。
……いや、それはドーピングみたいな物だろ!
せめて、戦闘中にそれをやれよっ!
「……そう言う事か」
地味に呆れた自分がいる。
この辺に関して言うのなら、自分もルールをちゃんと把握してなかったと言う事も悪いので、これ以上の詮索をする訳にも行かないだろう。
どちらにせよ、補助魔法またはスキルを予め行っていたヤツに関しては、再評価する必要があるから……後で採点をやり直さないと行けないな。
そんな事を考えていた私がいた頃、
「……っ!」
私の眼前にやって来たストレートを避けた直後、避けたストレートがそのまま起動修正する形ですぐに裏拳に変わる。
バキィッ!
「うわばっ!」
うぁ……恥ずかしい言葉を出しちゃってるよ!
避けて間もなく、そのまま後ろにあったストレートが戻って来て、私の後頭部にヒットする。
威力も大した物だ……。
「うむ、満点! 補助魔法を掛けた魔法使いにも高得点を加算して置こう。後で名前を教えてくれ」
ニコニコと笑みで答えた私の返事は拳で返って来た。
……相変わらず真面目な子だな。
ヒュッッ!
ギリギリの所で、メイの拳が私の頬をすり抜けて行く。
……スパッ! と、私の頬が切れた。
うぉ……ちゃんと避けたのに、それでも見えないカミソリみたいなのを喰らったぞ。
しかも、これ……避けてもブーメランの様な裏拳が、
ブゥンッッ!
やっぱり来るのか!
ガッッッ!
今回は、予測していた子ともあり、しっかりとガードして見せる。
……手が軽く痺れたぞ。
私も人の事は言えないが、見た目の細い腕からは予想も出来ない豪腕っぷりだ。
「腕を上げたなぁ……メイちゃん。本当に驚いたよ」
それでいて、少し嬉しくもある。
子供時代のメイは、拳聖の娘である自分を嫌っていた節があった。
結局の所……拳聖と言う特殊な存在の子として、小さい時から修行を強制されていたからだ。
……故に、子供ながらに思ったのだ。
他の子と同じ様な生活を平凡に送りたい……と。
故に、私がメイと初めて出会った時は、拳聖なんて物に良いイメージなんか無かったし、むしろ嫌悪するぐらいだった。
あれから……約五年。
メイの心境にどんな変革があったのかは知らない。
もしかしたら、今でも普通の人間に憧れを抱いているのかも知れない。
それでも嬉しいと思う。
今いるメイは……紛れもない、拳聖として成長した姿なのだから。




