【1】
「もうすぐ学園祭だね」
「ああ、そう言えばそんなのあったな」
私はルミ姫の言葉に相槌を打った。
冒アカでは毎年恒例の校内行事だ。
学園祭の内容は一見すると、他の学校で行われている普通の学祭と同じ様に見える。
生徒がクラスまたはクラブ等で、色々な出し物を催して、学園を一般解放する。
ここまでは、他校と全く変わらない。
だが、冒険者アカデミーの学園祭は、これだけでは終わらないのだ。
むしろ、こっちが祭りのメインイベントとも言える。
それが校内総合武道大会。
冒アカ・バトルGPと呼ばれる、毎年恒例の大会なのだが、参加資格は冒アカの生徒であれば誰でも良く、むしろ生徒は義務で参加する必要がある。
まぁ、あれだ。
マラソン大会とかと同じ要領で全員参加が基本の大会と言うわけだ。
「今年はかなり盛り上がると思うなぁ。リダがいるからねぇ」
楽しそうな声で、能天気に言うルミ姫様。
「いや、そう言うわけにも行かないだろうよ……」
私はちょっとだけ苦く笑って言う。
ルミは知らないから、結局は私が大活躍する大会を観覧する予想とかしてるのかも知れない。
「どうして?」
「まぁ、色々と事情があるんだよ、これが」
これでも、私は冒険者として生計を立てている。
現在だって例外ではない。
純粋に仕事として、この学園に入学している、言わばプロだ。
いや、プロどころか……そのプロの頂点に立っている存在と言っても過言ではない。
そんな相手が……まだ学生であり、見習いの冒険者ですらない相手に本気なんか出したら、流石に顰蹙を買うと言うものだ。
中間考査はつい、満点を取ってしまったが……いや、それだけに思う。
今の私は大人気ない! と。
獅子はウサギを相手にする時ですら全力を出すとは言うが……それを本当にやってしまうと、ただの反則行為になる事を、私は前回のテストで学んだ。
前回のフラウの冷ややかな目が、未だ脳裏に浮かぶよ……。
「今回の大会は、生徒が全員出る事が決まってるから、一応の出場はするけど、クラス予選で痛い目みない内に敗退かな、と思ってる」
「ええええええっ!」
叫んでいたのは、フラウだった。
昼休みになって、学内の中庭にあったベンチに座り、学食で勝ち取った白いパンをルミと二人で食べていた所に、ちょうどフラウがやって来た感じだ。
当人も、別に盗み聞きする気ではなく、偶然見かけたから声を掛けようとした様にみえる。
「な、なんで本気出さないんです? いや、本当の意味で本気出されたら確かに困るけど、どうしてわざと負けるんですか!」
言いたい事はわかるけど、なんか矛盾してるぞ、フラウさんよ……。
「そうだよ、リダ~。それじゃ相手にも失礼だよ」
隣に座っていたルミもちょっと面白くない顔になっていた。
いや、だってさ?
「私と冒アカの生徒が戦うって、何かフェアじゃない気がしてさ」
「今更なにを………」
苦笑して言う私に、フラウは少し呆れた顔で言う。
いや、まぁ、そのぅ……確かに今更なんだけどさぁ。
「この大会は、三年生にとっては、特別な大会でもある。数少ないアピールの場所でもあるしな」
私は二人に言った。
実はこの大会。
冒アカの生徒を、世界の有力な組合長達に自分の実力をアピールする、格好の場所でもあった。
ここらもあって、本戦は学園の闘技場でやるのだが、それとは別に違う闘技場でもフォログラフが出現して、あたかもそこで大会が行われているかの様な臨場感のある戦いを見る事が出来たりもする。
つまり、リアルなライブ中継をする魔法を使って、世界の至る所で同時中継されてるわけだ。
同時にそれは、冒アカで行われている戦いを、世界のあらゆる人間が見る事になる。
ここで優秀な成績を残せば、卒業後の進路も大きく変わる。
人によっては人生すら変わるかもしれないわけだ。
生徒達からすれば、この上ない大チャンスでもある。
それを、会長と対戦してしまったと言う不幸で水の沫にしてしまったのなら……もはや目も当てられない。
私は飽くまでも学園を守るのが目的だし、新しい芽を誰より大事にしたいのだ。
「私は、これからの未来を担う若者諸君を心から応援したいんであって、決してどつき回したいわけではないんだ」
「その割に、私には手厳しかった様な……」
フラウがじと目で私を見て来た。
そ、そんな事ないぞ!
ちゃんと手加減はしたぞ!
「せめて、私にみせた程度の実力は、周囲に出しても良いんじゃないんですか?」
「う~ん………」
難しいトコだなぁ。
つまり、出場するのなら本気出さなければ良いんじゃない?
バイ・マリーフラウアネット。
的な感じなんだろう……多分。




