こうして実技試験は鬼門となった【14】
私に握られた模擬刀は、彼がどんなに力を入れても、全く微動だにしない。
その上で、私は言った。
「どうだ? 今回はわざと防御壁を消してやったぞ? これで本望か?」
ニィ……と、涼しげな微笑みまで浮かべて。
……うむ。
ここだけ見ると、私は思いきり悪役してるな。
特に悪意があってやってる訳ではないが……これだけの余裕を相手に見せれば、納得してくれると思ったんだ。
私と特待生との間にある天と地ほどの実力差を……だ。
「まだやるか? どうでも良いが? 私は余り器用な人間じゃない。これ以上やると言うのなら、多少は怪我をしても恨むなよ?」
「……っ!」
特待生の顔から、みるみる生気が失われて行くのが分かった。
「……完敗です」
彼は膝から崩れ落ちる様に呟き、そして完全に消沈したまま四つん這いになっていた。
少しやり過ぎた感じもあるが……まぁ、良いだろう。
「私的に言うのなら、一般レベルなら及第点だ。今後も頑張る様に」
最後にこうと笑みで答えた私に、特待生は地味にショックを受けた顔になっていた。
……?
普通に誉めてやったつもりだったんだがな?
何はともあれ、この調子で私は次々と特待生達を相手して行き、しっかりと採点を取って行くのだった。
◎○●○◎
五十人程度、特待生の測定を終えた辺りで、十分程度の休憩になる。
ここが折り返しになるのかな?
特に休憩が欲しかった訳ではなかったんだが……ちょうど喉が渇いて来た事も確かだ。
「じゃあ、少しだけ休憩を貰う事にするよ」
答えた私は、闘技場の端に設置されているベンチの方へと向かった。
ベンチの方に向かうと、見知った連中が私を迎え入れる形で声を掛けて来た。
フラウとユニクス……それに、ルミとルゥもいる感じだ。
フラウとユニクスの場合は、そこまで驚いた風もなく……大方の予測通りだったのか、
「お疲れ、リダ」
笑みで答えたフラウは、私に飲み物とフェイスタオルを手渡して来る。
「特待生の実技試験役、お疲れさまです。何か欲しい物があればすぐに持って来ますので、何でもお気軽に申し出て下さい」
程なくして、ユニクスが爽やかな微笑みを向けて私へと言って来た。
相変わらず、人の世話とかをやらせると、誰よりも良く動く。
これが元悪魔だったなんて……誰が信じるだろうか?
「ありがとう。今の所は、ユニクスの気持ちだけを受け取って置くよ」
「そうですか……分かりました。けれど、無理だけはしないで下さい。私が誠心誠意……真心を込めてリダ様をサポートします!」
答えたユニクスは、やっぱり驚くまでの爽やかさで私へと言っていた。
今にも、歯がキラーンッ☆ と輝きそうな勢いだ。
本当……私に対してのユニクスは、決して悪い性格じゃないんだよな。
てか、改心して勇者になってからのユニクスは、本当に良いヤツなんだよな……。
これでレズじゃなかったのなら、本当に完璧な人間だって言うのに。
「なんてか、ユニクスって、惜しい人間だよな」
「あの……それは、誉めておりませんよね?」
嘆息混じりに答えた私に、ユニクスは思わず口元を引きつらせて返答していた。
そんな時だった。
「スゴいですね、リダさん。私はあなたと言う人間をちょっとだけ勘違いしていたかも知れません」
ルゥが瞳を輝かせて声を掛けて来た。
見ると、その隣に立っていたルミは少しだけ苦笑していた。
「なんかね? 試験管役をしていたリダの戦いっぷりを見て、ルゥがスゴい感銘を受けたんだってさ?」
「感銘? そんなに大それた事をした記憶がないんだが?」
ルミの言葉に、私は少し首を傾げていた時、
「そこが、スゴい事なのです!」
いつになく語気を荒くして叫んだルゥがいた。
「私の観点からするのなら、リダさんの実力は恐ろしいです……それは、いつぞやの時に見せて貰っていたので、多少は存じております」
ルゥは熱意を込めて、口から吐き出すかの様に声を出していた。
余談だが、私はこないだの春休みの時にニイガで再び起こった騒動に、少しだけ手を貸していた。
私的に言うのなら……私の力なんかなくても、自分達の力だけで十分に解決可能だったと思うのだが……それは一先ず置いておく事にして。
ルゥの視点はそこではないらしい。
「ちゃんと、相手の実力に合わせ……かつ、相手を怪我させない様に注意しながら採点だけをして行く。これは簡単な様でとても難しい……何より、人一倍の慈愛を持っていなければ不可能な事です」
言ったルゥは少し興奮気味だった。
そんな、大層な話ではないと思うんだけどなぁ……。
かなり熱弁するルゥの台詞を耳にして、聞いた私の方が恥ずかしくなって来た。




