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こうして私は無双する・リダVer  作者: まるたん
第三編・編末オマケ短編
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こうして実技試験は鬼門となった【13】

「な……なんだよ……これ……」


 十発近い斬撃を連続で打った所で、特待生は顔をおもむろに引きつらせて呟く。

 他方、私は一通り採点を済ませていた。


「うん? どうした? もうスタミナ切れか? そうなると、体力的な物は低いと採点しないといけないな」


 答えた私は、再び採点表に目を通し……


『体力と根性はない』


 ……と、追記で書き加えていた。


「アンタ、汚くないか? それってあれだろ? 学園側で使われている防御結界とかだろ? 反則じゃないのか?」


「は?」

 

 私はポカンとなった。

 確かに、学園が用意した結界と言う物は存在する。

 だが、それは主に場外にいる、観客席にとばっちりが来ない為に張る物で、闘技場で戦っている当事者に張るなんて事はない。


「勘違いするんじゃない。これは私の自前だ。ついでに言うのなら、お前は私が用意している一段階目の壁すら壊せていない」


 私はしれっと言う。

 私が戦闘を開始する意思が生まれると同時に自動で発動する、この防御壁は……言って見れば対格下と戦う事を目的とした防御システムだ。


 本当の意味で、私が防御を意識した時に発動する魔導防御は別にある。

 尤も……そんな物を発動させる必要など、今の所は全くなかったのだが。


「これでも、かなり手加減してやっているんだぞ? 本気であったのなら、お前の身体はとうに無くなっている」


「冗談だろ……?」


 真剣な顔になって答えた私を前に、特待生は少しだけ笑って見せた。

 正直な所……本当は笑い飛ばしたい気持ちで一杯なんだろう。


 けれど、それをする事が出来ない。

 理由は簡単だ。

 実際に私の前にある見えない防壁に、手も足も出ないのだから。


 簡素に言うのなら、半分は信じている……否、疑心暗鬼に陥っていると言う感じだろうか?

 私の言う事を全て信じたい気持ちはあるのだが、余りにも自分の中で果てしない能力であった為、頭の中がついて行けない。


 何より、始めての経験だったのだろう。

 ここまで、圧倒的な実力差のある相手と戦った事が……だ。


 ……そして、思う。

 この経験が、今後の特待生に良い意味で新しい経験となってくれる事を。


「そろそろ、採点は終了だ。正直……うん、頑張った方だと思う」


 自分の書いた採点表を軽く見流してから私は言う。

 その態度が気に入らなかったのか? それとも別の理由か?

 まぁ、私にはその違いを見極める事は出来なかったんだが、特待生は逆上するかの様な表情になり、憤怒の形相で叫んだ。


「ナメるんじゃないっっ!」


 いきり立った状態で、模擬刀を両手で大きく振りかぶる。


 ……おいおい。

 そんなに大降りな状態をわざわざ正面から見せるとは。


「……はぁ」


 もしかしたら、少し焦燥感と言う物があったのかも知れない。

 特待生として試験を受けた結果……自分が最下位と言う不名誉な結果に終わってしまった事も、精神を追い詰められた結果に繋がったのかも知れないな。


 特待生として、この場に来ていると言う事は、少なからずエリート的な感性を持ち合わせているのかも知れない。

 つまり、自分は選ばれた人間だと言う考えだ。


 特待生をしている時点で、その考えに間違いはないんだろうが……しかし、私は一つ物申したい。


「お前は、自分を特別だと思い込み過ぎてる。優秀な人間だと思う事は自信にも繋がるし、全てを否定する事はしないが……」


 ガッッッ!


 その時、私は大振りの模擬刀を、敢えて素手で受け止めた。

 彼にとって全身全霊とも言える渾身の一撃だったのかも知れないが、本来であるのなら、これまで展開していた見えない壁に当たっておしまいであっただろう。


 けれど、もしそうであった場合……彼は明らかにこう考える。


 あれは、学園で設置された反則的な防壁だ、と。


 本当は違うと何回も釈明した所で、彼はそう思わないだろう。

 理由は簡素な物だ。


 そうと、自分で思い込んでいるからだ。

 そうと、自分で思い込まないと、自分と言う存在が恐ろしくちっぽけな存在になり果ててしまうからだ。


 己の中に存在するだろう自尊心を壊したくない為、何かに言い訳を求めたい心理が働く。

 結果……彼は見えない壁がなかったら、自分はもっとやれた……と、考える様になるのだ。


 それでは行けない。


 勝つも負けるも、同じだ。

 ちゃんと納得した上で、結果を直視しないと行けない。


 自分を偽るのは簡単であり……何度もやって行くと、いつの間にかクセになってしまう。


 だからこそ、私は思った。

 一切の言い逃れも出来ない、完敗を彼に与えようと。


 素手で受け止めた模擬刀は、私に握られると、


「……う、くっ! な、なんだよ、これっ!?」


 特待生は顔をくしゃりと歪ませた。

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