こうして実技試験は鬼門となった【11】
「いくらリダでも、百人とか……体力持つの?」
フラウは少し心配そうな顔になっていた。
へぇ……。
フラウでも、私の事をちゃんと心配してくれるのか。
そう思うと、少しだけ嬉しくなるな。
不意に口元を緩ませ、自然と笑みを作っていた私がいた所で、ユニクスが瞳をキラーン☆ と輝かせてから声を吐き出した。
「そうですよ! 如何にリダ様とは言え、多勢に無勢! 私もリダ様が心配でなりません!……ああ、リダ様の足が、腕が……その胸元が……多くの特待生からの猛攻に耐えないといけないのです……その事実に、私の思考は……気持ちは……はぁはぁ」
……いや、まて。
後半は、確実に違う事を考えていたよな?
私の顔が、自然と怪訝な物へと変化して行く中、地味に息を荒くしていたユニクスが、両手コブシをギュッ! と握りしめた状態で叫んだ!
「リダ様が綺麗な身体である今の内に! 私の愛情を注がせて下さいっ!」
「どう言う理屈だっっ!」
ドォォォォォンッッッ!
ユニクスは爆発した。
相も変わらずな頭の造りに、怒りを通り越して呆れてしまう。
本当……コイツの脳みそはどんな仕組みをしていると言うのだろうか?
「ああ! リダ様の愛が段々と病み付きに……」
……やばい。
変な物を覚醒させてしまった気がする。
私は背筋に悪寒感じ、当時に身の危険をも抱き始めた。
取り合えず、悶絶しているユニクスは、恍惚の笑みでプスプスと頭から煙を上げながら倒れているので、そのままにして置こう。
……てか、地味に気持ち悪いんだが……?
「まぁ、あれだ。相手が百人と言っても、全員が超格下だからな。能力を判断すると言う目的もある。私としては全員と戦って見たいと言う興味もあるんだ」
気を取り直す形で、私は視線をフラウに向けてから口を開いた。
一応、これでも冒険者協会の会長だからな?
未来の冒険者達の実力を直接実践で感じる事が出来ると言うのは、私の立場からしても実に興味深く……そして貴重だ。
願わくば、これで私を越える様な、心身共に立派で強靭な冒険者が生まれる礎になればと思う。
「……そっか、やっぱりリダはリダなんだね」
フラウはちょっとだけ苦笑する形で私に答えた。
「……? どう言う意味だ?」
「なんて言うかさ? ここでこうして一緒にいると忘れてしまいそうになるんだけど……やっぱり、リダは冒険者協会の会長で……ちゃんとみんなの事をしっかり考えてくれてるんだな……って」
「あはは! まぁ、そうな?」
少し尊敬する感じの眼差しで答えたフラウに、私もやんわりと笑みを作ってから頷いてみせた。
……ただ、すこーしだけ気になる所がある。
「今年の生徒のレベルは、少し低くないか?」
私的に言うのなら、少し物足りなさを感じる。
しかも、これで特待生と言うのだから……ちょっと、な?
「そう? かなり能力の高い子も一杯いたよ?」
「……そうか?」
「うん! いたね!」
フラウは自信を持って答えた。
……私の採点が辛すぎると言う事なんだろうか?
うーん……けれど、能力的に言うのならフラウやルミ、パラスの方が格段も上だった気がするんだがなぁ……?
こんな事を両腕を組みながら考えていた時だった。
「メイ・シールレン……って、子がいたんだけど。この子は凄かったよ」
フラウはかなり真剣な顔になって答えていた。
メイ・シールレン?
………うーん。
……なんだろう?
何処かで聞いた事がある名前だ。
「これは嘘か本当かは知らないけど、噂だと拳聖の娘だったらしいよ?」
拳聖……だと?
「ああああああっっっ!」
私は思わず大声を上げてしまった。
分かった! あのメイちゃんかっ!
「い、いきなりどうしたのっ!?」
フラウはかなり驚いた顔して私を見た。
ああ……そうなるのかも知れない。
私としても、かなり昔の事過ぎて、思い出すのに時間が掛かってしまったからな。
……それと言うのもだ?
「メイって名前の子……私、知ってたぞ」
「え? そうなの?」
私の言葉に、フラウはかなり意外そうな顔をしていた。
私も私で、今は違うが、かなり意外だった。
今から五年以上は前だったか?
拳聖の村と呼ばれる小高い丘の上にあるのどかな農村に、私は冒険者のクエストを受注して、その村に向かう事になるんだ。
その時に知り合った、十歳程度の少女。
その子の名前がメイって名前だった。
そうかぁ……メイちゃんがねぇ。
「私も歳を取る訳だ」
私は思わず、感慨に浸ってしまった。
「どうでも良いけど、今のリダは十六歳なんだけどね?」
……あ、そうか。
それはそれで面倒な話だな……とか、少しだけ思う私がいた。




