こうして実技試験は鬼門となった【8】
「…………はぁ?」
信じられないと言わんばかりに、顔を大きく歪ませるディゴがいた。
気持ちは分からなくもない。
模造刀とは言え、ディゴは本気で叩いていた。
そりゃあ、もう!
まるで親の仇を相手してるかの様な勢いで、フルスイングしてた。
……それだけ本気で叩いても尚、稀少金属で出来た円柱には、傷一つ付いていなかった。
つまり、凄まじく頑丈だと言う事だ。
その、とてつもなく頑丈な円柱に……ユニクスは拳を突き刺して見せたのだ。
もちろん、驚かない訳がない。
「これで良いか? 一年坊主?……いや、お前はまだウチの学園の生徒ではなかったな」
稀少金属に拳を突き刺していたユニクスは、そのままの体制でディゴへと視線を向ける。
「……え、えぇと……は、はい」
腑抜けた声を返すディゴがいた。
私的な視点からするのなら、まだちゃんと返事をする事が出来ただけマシだと思う。
気付くと、ユニクスの周囲にいた男達が、まるで蜘蛛の子を散らすかの様に、何処かへと居なくなってしまった。
……目の前にいる艶やかで落ち着きのある美人が、実は下手な魔神よりも強力な腕力の持ち主である事に気付いて、思わず逃げ出してしまったのだろう。
なんだよ……特待生とか言われている割りには、腰抜けが多いんだな。
私は軽く周囲を見回しながら、ユニクスへと声を出した。
「おいおいユニクス……お前が粗っぽい真似をしたから、他の特待生がビビって逃げちゃったろ? せっかく美人でお淑やかな良い女って感じだったのに」
「私は別に淑やかではございません。それに、ここにいた下級生の候補達は、なにやら私の事を……その、下衆い目で見ている連中ばかりでした。測定も終わっていた者も多かったので、むしろ居なくなって清々していますよ」
言ったユニクスは、顔でも清々したって感じの、晴れやかな顔をしていた。
「……チッ」
それを見て、私は思わず舌打ちする。
あそこにいる男の誰とでも良いから、コイツを引き取って欲しかったんだけどなぁ……。
「リダ様?……今、舌打ちしませんでした?」
そこで、ユニクスがあざとく指摘して来た。
私はちょっとだけ焦りつつ、
「そんな事ないぞ? それより、お前……これ、どうするんだよ?」
お茶を濁す様に、話のベクトルを変えた。
そんな私が示した先にあるのは、未だユニクスの手が埋まった状態になっている、稀少金属の円柱だ。
「これですか? 別に問題はないとは思いますが?」
しれっと、普通に答えたユニクスは、そこからズボッ! っと、円柱から腕を引き抜いた。
その瞬間。
ピシィ……ピシピシィッッ!
引き抜かれた部分からヒビが生まれ、
ドシャァァァァァァンッッ!
円柱が完全に粉砕されてしまった。
「……っ!」
ディゴが、顔面蒼白になって固まっていた。
やべぇ……面白い!
この調子だと、恐怖で失禁しかねない顔になっていたディゴを前に、私は少しだけイタズラ心を抱く。
「おい、一年……お前、かなりヤバイ事になったぞ?」
心の中では笑いつつ……しかし、顔ではかなり真剣な表情を深刻に作りながらも、ディゴの耳元で囁く様に答えた。
「……え? な、なにがヤバイのですか?」
ディゴが怯える様に答えた。
どうでも良いが、さっきまでの威勢の良さはどこに行ってしまったのか?
態度もそうだが、口調まで思いきり変わってしまった。
まぁ、けれどツッコミは入れないで置こう。
冷静に考えれば、コイツは暫定で一年になる訳だし……そして、ユニクスは三年生だ。
「お前は、この学園でも一番怒らせては行けないヤツを怒らせたぞ……?」
「マ、マジッスか!?」
ディゴは、ムンクみたいな顔になっていた。
あはははははっっ! ヤバイ、楽しいっ!
「ああ、本当だ……お前が大見得を切って『俺の女になれ』と言ったお方は、この学園で最強の実力を誇る、三年のユニクス先輩だ」
「三年?……ああ、やっぱり二年の先輩じゃなかったんですね」
「当然だろう?……この学園は、一年通うだけで実力差が話にならないまでに出るんだぞ? お前はまだ通ってもいない……言わば部外者だ? けど、ユニクス先輩はそんな所にもう二年も通っている。この差はお前も分かるだろう?」
「…………」
ディゴが絶句した。
確かに、その差は歴然だった。
もう、生意気な口を言う事なんか出来ないレベルだ。
「今からでも遅くない。ちゃんと謝って……そうだな? 舎弟にでもしてもらうのはどうだ? 先輩の強さの秘訣とかも分かるかも知れないぞ?」
「舎弟ですか……そ、それは良いかも知れないッス!」
私の提案に、ディゴは存外乗り気だった。
どうやら、どんな形であれユニクスを気に入ってはいるみたいだ。
いいな!
その調子で、どんどんユニクスとコミュニケーションを取って行って、同性愛と言う地味にねじ曲がった感情を消して行ってほしいっ!
思い、私はそこからディゴに色々と吹き込もうとしていた時だった。
「……リダ様? どうでも良いですが、その会話はちゃんと全部聞いてますから」
憤然とした顔のユニクスが、私とディゴの合間に入る形でやって来た。




