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こうして私は無双する・リダVer  作者: まるたん
第三編・編末オマケ短編
212/1397

こうして実技試験は鬼門となった【8】

「…………はぁ?」


 信じられないと言わんばかりに、顔を大きく歪ませるディゴがいた。

 気持ちは分からなくもない。

 模造刀とは言え、ディゴは本気で叩いていた。


 そりゃあ、もう! 

 まるで親の仇を相手してるかの様な勢いで、フルスイングしてた。


 ……それだけ本気で叩いても尚、稀少金属ミスリルで出来た円柱には、傷一つ付いていなかった。

 つまり、凄まじく頑丈だと言う事だ。


 その、とてつもなく頑丈な円柱に……ユニクスは拳を突き刺して見せたのだ。

 もちろん、驚かない訳がない。


「これで良いか? 一年坊主?……いや、お前はまだウチの学園の生徒ではなかったな」


 稀少金属ミスリルに拳を突き刺していたユニクスは、そのままの体制でディゴへと視線を向ける。


「……え、えぇと……は、はい」


 腑抜けた声を返すディゴがいた。

 私的な視点からするのなら、まだちゃんと返事をする事が出来ただけマシだと思う。

 気付くと、ユニクスの周囲にいた男達が、まるで蜘蛛の子を散らすかの様に、何処かへと居なくなってしまった。


 ……目の前にいる艶やかで落ち着きのある美人が、実は下手な魔神よりも強力な腕力の持ち主である事に気付いて、思わず逃げ出してしまったのだろう。

 なんだよ……特待生とか言われている割りには、腰抜けが多いんだな。


 私は軽く周囲を見回しながら、ユニクスへと声を出した。


「おいおいユニクス……お前が粗っぽい真似をしたから、他の特待生がビビって逃げちゃったろ? せっかく美人でお淑やかな良い女って感じだったのに」


「私は別に淑やかではございません。それに、ここにいた下級生の候補達は、なにやら私の事を……その、下衆い目で見ている連中ばかりでした。測定も終わっていた者も多かったので、むしろ居なくなって清々していますよ」


 言ったユニクスは、顔でも清々したって感じの、晴れやかな顔をしていた。


「……チッ」


 それを見て、私は思わず舌打ちする。

 あそこにいる男の誰とでも良いから、コイツを引き取って欲しかったんだけどなぁ……。


「リダ様?……今、舌打ちしませんでした?」


 そこで、ユニクスがあざとく指摘して来た。

 私はちょっとだけ焦りつつ、


「そんな事ないぞ? それより、お前……これ、どうするんだよ?」


 お茶を濁す様に、話のベクトルを変えた。

 そんな私が示した先にあるのは、未だユニクスの手が埋まった状態になっている、稀少金属ミスリルの円柱だ。


「これですか? 別に問題はないとは思いますが?」


 しれっと、普通に答えたユニクスは、そこからズボッ! っと、円柱から腕を引き抜いた。


 その瞬間。


 ピシィ……ピシピシィッッ!


 引き抜かれた部分からヒビが生まれ、


 ドシャァァァァァァンッッ!


 円柱が完全に粉砕されてしまった。


「……っ!」


 ディゴが、顔面蒼白になって固まっていた。

 やべぇ……面白い!

 この調子だと、恐怖で失禁しかねない顔になっていたディゴを前に、私は少しだけイタズラ心を抱く。


「おい、一年……お前、かなりヤバイ事になったぞ?」


 心の中では笑いつつ……しかし、顔ではかなり真剣な表情を深刻に作りながらも、ディゴの耳元で囁く様に答えた。


「……え? な、なにがヤバイのですか?」


 ディゴが怯える様に答えた。

 どうでも良いが、さっきまでの威勢の良さはどこに行ってしまったのか?

 態度もそうだが、口調まで思いきり変わってしまった。

 

 まぁ、けれどツッコミは入れないで置こう。

 冷静に考えれば、コイツは暫定で一年になる訳だし……そして、ユニクスは三年生だ。

 

「お前は、この学園でも一番怒らせては行けないヤツを怒らせたぞ……?」


「マ、マジッスか!?」

 

 ディゴは、ムンクみたいな顔になっていた。

 あはははははっっ! ヤバイ、楽しいっ!

 

「ああ、本当だ……お前が大見得を切って『俺の女になれ』と言ったお方は、この学園で最強の実力を誇る、三年のユニクス先輩だ」

  

「三年?……ああ、やっぱり二年の先輩じゃなかったんですね」


「当然だろう?……この学園は、一年通うだけで実力差が話にならないまでに出るんだぞ? お前はまだ通ってもいない……言わば部外者だ? けど、ユニクス先輩はそんな所にもう二年も通っている。この差はお前も分かるだろう?」


「…………」


 ディゴが絶句した。

 確かに、その差は歴然だった。

 もう、生意気な口を言う事なんか出来ないレベルだ。


「今からでも遅くない。ちゃんと謝って……そうだな? 舎弟にでもしてもらうのはどうだ? 先輩の強さの秘訣とかも分かるかも知れないぞ?」


「舎弟ですか……そ、それは良いかも知れないッス!」


 私の提案に、ディゴは存外乗り気だった。

 どうやら、どんな形であれユニクスを気に入ってはいるみたいだ。


 いいな!

 その調子で、どんどんユニクスとコミュニケーションを取って行って、同性愛と言う地味にねじ曲がった感情を消して行ってほしいっ!


 思い、私はそこからディゴに色々と吹き込もうとしていた時だった。


「……リダ様? どうでも良いですが、その会話はちゃんと全部聞いてますから」


 憤然とした顔のユニクスが、私とディゴの合間に入る形でやって来た。

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