こうして実技試験は鬼門となった【7】
「別に良いじゃないか? むしろ、お前は同性に愛情を抱く悪い癖がある。これが良いチャンスじゃないか」
にんまりと笑って答えた私。
私の本音を言うのであれば、眼前にいるガラの悪いクソガキは趣味ではない。
……つーか、お断りだ!
……が、しかし?
良い感じでレズとくっついてくれると言うのであれば、私は他に言う事はない!
「リダさまぁ……それは幾ら何でもあんまりじゃないんですか……」
ユニクスは陰鬱な顔して私に言った。
もう、顔から見て分かる程の強烈な拒絶のオーラをぐぉぐぉ言わせていた。
しかし、少年……ディゴは全く素知らぬ顔だ。
……うむ。
ナイスな厚顔!
「なんだよ? 俺の魅力が分からないヤツなのか?」
ああ、分からないね。
「それなら、今すぐに分からせてやるよ」
その自信は、どこから来るんですかね?
もう、ビックリするくらいにツッコミ所が満載だったディゴだったが、私は傍観を決め込んでいた。
理由は実にシンプルだった。
だって、面白そうなんだもん。
「別に、お前の魅力など知った事か……そんな事より、測定を済ませてサッサと消えろ」
答えたユニクスは屹然とした態度でディゴを思いきり睨んだ。
……あ、本気で怒ってる。
けれど、それでもディゴは全く気を害す事なく、平然とした面持ちで振る舞っていた。
「ああ、そうだったな?……で? これをどうすりゃ良いんだ?」
ディゴは、答えてから軽く眼前にある鉄柱の様な物を示して見せる。
ディゴが指した鉄柱は、半径五十センチ、高さ一メートル程度の鉄柱だ。
簡素に言うのなら、小さな鉄の円柱って所か?
「特に大した事はしない。お前の好きな方法で、その円柱を叩けば良いだけだ。武器は何を使っても構わない」
ディゴの質問に、ユニクスは事務的な口調で説明した。
実際、そんな感じだな。
これは、冒険者協会ではお馴染みの測定器だ。
一見すると鉄の円柱に見えるが、実は稀少金属で出来た、特殊な金属の円柱だ。
よって、恐ろしく頑丈。
この、とてつもなく頑丈な円柱へと衝撃を与える事で、その衝撃を数値化する訳だ。
「なるほど。方法はどんな方法でも良いんだな?」
「構わない。ただし物理攻撃だけだ。魔法による測定は他で行うので、ここでは純粋に物理攻撃力を測定する場所だと考えてほしい」
「そうかい……なら、賭けないか?」
「賭ける?」
ディゴの申し出に、ユニクスの眉がピクリと跳ねた。
正直、嫌な予感がする……って感じの顔をしてた。
他方の私は、口元が緩みっぱなしだった。
「ああ、そうさ? もし、この測定でアンタの数値より俺の数値の方が高かった時は……俺の女になれ」
おおおおっ!
ほ、本当に面白いな、こいつ!
でも、私には言わないでくれよ?
言ったら、その頭を陥没させるからな?
「……お前はバカなのか?」
ユニクスは嫌悪の塊染みた表情をアリアリと作りながら言う。
「バカで結構……俺は俺が思った事に忠実なだけさ」
ディゴはニヒルな笑みを作ってから言ってた。
多分、本人は格好付けて言ってるんだろうし……こんな事を言ってる俺、かっけぇっっ! とかって、勘違いしてるんだろうけど、私の視点からするのなら、普通にただのバカだった。
そこから、ディゴは近くにあった模造刀の様な物を手に取ってみせる。
今気付いたんだが、近くには円柱を叩く目的で用意された武器が結構あった。
なるほど、これを自由に使って、打撃測定を行う様になっているのか。
そんな事を軽く考えつつ、様子を見守る形を取った。
「……いくぜぇ?」
模造刀を握ったディゴは、自信のある笑みを作りながらも、
ドカァッッ!
円柱を叩く。
正確には、円柱に向かって斬り付けると言う形なんだろうが……そこはそれ、模造刀だ。
殺傷力的な意味で言うのなら、ほぼ無いと述べて良い。
但し、打撃的な意味だけで言うのなら、それ相応の力が加わっているだろう。
この測定器もさ? 実践で、ちゃんと切れる武器で斬っている事を想定しての計算をした上で、数値を算出している。
まぁ、高密度かつハイレベルな魔導器って所だな。
よって、模造刀であったとしても、ちゃんと数値的な物は実践で参考に出来るだけの数値が出て来る。
その上で出た数値は、
「4458……か。まぁ、平均は越えているな」
測定された数値を見て、ユニクスは冷静に数値を書き込んで行く。
何もかもが事務的な行動をしていたユニクスを前に、ディゴが好戦的な瞳をギラギラさせてから口を動かした。
「次はアンタの番だ……さぁ、やって見ろ」
ゴッッ!
返事は鉄拳でやって来た。
その瞬間……ユニクスの拳は、鉄柱のど真ん中に突き刺さった。
……そう。
突き刺さったのだ。




