こうして実技試験は鬼門となった【4】
話によると……今回の試験は、校内の人間でも関係者以外はむやみに試験会場へと入る事が許されていないらしい。
そりゃ……まぁ、そうなるだろうな。
試験とは関係のない生徒がウロウロされたんじゃ……本来ちゃんと進む筈の試験も、しっかりと進む事が出来なくなってしまう。
ましてや……ルミの様な物見遊山が目的の様なのがやって来られては、学園側としてもたまった物ではないだろう。
私が実技の試験官として、特待生と戦うと言う事を知ったルミは、実技の試験会場となる闘技場でルゥと二人でお弁当広げて観戦する予定だったらしいが……見事にアテが外れた事になる。
けれど、ルミは諦めなかった。
それならどうする?
この答えはシンプルだった。
関係者以外は立ち入り禁止にするのなら、関係者になれば良いじゃない?
……バイ、ルミ・トールブリッジ・ニイガ。
つまり、闘技場で私の姿を見たいと言う理由で、試験の係員を自分から申し出た事になる。
……バカなのか、お前ら!
つか、そんなに暇な事してるなら、もっと他にやる事あるだろっ!
しかも、この考えを持っていたのは、ルミやルゥだけではない。
「もちろん、リダ様の勇ましい姿を拝見させて頂きたい為、私も記録係を担当させて頂きます!」
全力でグッジョブをすると言う……もはや謎でしかないポーズを、一切の羞恥心を抱く事なく行っていたのはユニクスだ。
そして、その隣にいたフラウもまた、瞳をキラーン☆ と光らせてから言う。
「クソ生意気な新入生がヒーヒー言う姿を見たいじゃない!」
軽くひでぇ……。
しかも、冗談ではなく本気で言ってるよコイツ……。
「フラウ……お前、性格悪過ぎだろ……」
少し呆れた顔になって言う私がいた所で、フラウは少しだけ動揺を隠せない顔になり、
「そ、そんな事ないもんっ! 成績がちょっとだけ優秀だったり、人より少しだけ強いってだけで天狗になってる新人が、現実を知る顔が見たいだけだもんっ!」
それがひねくれてるって言いたいんだよ……。
「……まぁ、係になってしまった物を、今更キャンセルって訳にも行かないだろうし……お前らは、私が何を言っても利かないだろうから……もう、何も言うつもりはないが……」
だけど、本当にお前ら……暇だな。
揃いも揃ってジャージを着込み、特待生が受ける試験の係員をそれぞれ色々な役割を担当して、試験を円滑にして行くと言う大義名分の元……私達は、もう少しでやって来るだろう特待生を前に、試験会場の一つでもある、体育館へと向かって行くのだった。
●○◎○●
一時間程度が経過し、試験も始まって行く。
予定では、午前中に簡単な能力測定を行い、それから総合テストを一時間だけ行う。
総合テストは、難易度的に言うと冒アカの一年生が習う範囲程度の代物。
これから習う内容を試験に出すと言うのも変な話ではあるんだが、相手は飽くまでも特待生であり、この程度の知識はあって欲しいかな? と言う考えが学園側にもある模様だ。
まぁ、本当の所はどうなのか知らないけどな?
ともあれ、能力測定と同じく、総合テストの方も軽い測定と同じ様な意味合いがある。
要は、この成績を基準にして、その人物の得て不得手を知りたいと言うのが本質だ。
よっぽど成績が悪くない限り、この試験で不合格判定を受ける事はないだろうし……そもそも成績がそこまで悪いやつが、特待生としてこの試験を受ける事もない。
そう考えると、やっぱり試験者の能力を測定したいと言うのが、この試験の本分なのだろう。
生徒の今後をしっかりと踏まえると言う意味においては、とっても重要な試験とも言えるな。
……とは、言えだ?
「……暇だ」
体育館にいた私は、ポツンと一人……ポケーっとしていた。
ルミやルゥは、既に筆記試験の準備をする為に教室へと向かっていた。
フラウやユニクスの二人は測定係であった為、体育館の中で特待生の体力測定を記録したり、その案内をしていたりもする。
……他方の私はと言えば……午後の後半まで出番がない。
「朝から出張らなくても良かったんじゃないのか?……私?」
ふと、こんな素朴な台詞を独りごちる。
……ふ。
「なんだよ……寂しいじゃないか」
リダさんは、一人が嫌な人間なんだぞ?
これじゃ、なんか面白くないじゃないか!
思った私は……早速、近くにいるだろう記録係を茶化しに……もとい、顔を見せに行く。
……何処にいるのかな?
「……お?」
軽く、キョロキョロと辺りを見渡した時、フラウが記録を取っているのが目に付いた。
……よしっ!
これは遊びに……もとい! しっかりと激励してやらないとなっ!




