【5】
その一瞬で、全てが終わる……筈だった。
『ぐおわぁぁぁっ!』
大音響の悲鳴が辺り一面に谺する。
そう、声が響いた。
つまり、生きてた。
「……しぶといヤツだな」
……やれやれ。
さっきの一撃で素直に死んでいれば、苦しまずに済んだと言うのに。
けれど思った。
妙だな……と
それと言うのも、私が放った爆発魔法は魔王ゴブリンと言えど一撃で消滅するだけの威力がある、超爆発魔法だったからだ。
フレインダムドと呼ばれる炎熱爆破系最上位に当たる魔法で、直撃を喰らえばレッド・ドラゴンですら致命傷を負う。
……だが、どうだろう?
完全に直撃を受けた筈だと言うに、身体の左半分はまだちゃんと、肉体として残っていた。
これには驚いた。
同時に私は思う。
これこそ、世界に起こっている異変なんだ、と。
『お、おのれ……小娘ぇぇぇっ!』
瀕死ながら、息も絶え絶え……しかし、息をして忌々しく私を見た魔王ゴブリンに、私は思わず動揺を隠せなかった。
「本当……この世界で、何が起こっているんだか……」
今はまだ良い。
私もいる。
みかんもいるし、イリもいる。
つまり、強い仲間がいる。
けれど、こんなのがずっと続き、やがて私達ですら手に負えないモンスターが現れた時、この世界は果たしてどうなってしまうのか?
よしんば、私達が生きている間はなんとかなったとしても、その次の世代はちゃんとやって行けるのか?
全く……面倒な世界になってしまったな。
「大した物だ魔王様。あの世で自慢しても構わないぞ? 俺はあの会長の魔法を喰らっても生きたんだ、とな?」
『………』
余裕の笑みをわざと強かに作った私に魔王ゴブリンは絶句し、ひたすら恐怖に顔をひきつらせていた。
無理もなかった。
圧倒的過ぎだった。
正直、私も弱い者いじめなどしたくないし、このまま見過ごしてやっても構わないとさえ思う。
ま………見逃さないけどな。
「最後に、もう一つ聞いておく。お前のボスってのは、誰だ?」
『言えば、生かしてくれるか?』
「……考えてやろう」
『本当か! 俺たちのボスは、他の世界から来た転生……』
ボシュゥッッッ!
瞬間、鮮血が舞った。
コイツのボスと思われる存在を魔王ゴブリンが口にしようとした時、魔王ゴブリンの頭が破裂した。
………めちゃくちゃするな。
曲がりなりにも味方である筈の相手を、まるで空気を吸うかの様に始末したヤツがいた。
木陰の方だった……と、思う。
正確には、私にも上手く判断が付かない。
夜だったと言うのもあるし、相手の隠密力が極めて高く、気付くのが遅れたと言うのもある。
ただ、確実に……誰かいた。
「……まぁ、良い」
誰に言うわけでもなく、私は呟く。
良くは分からない……けど、相手は私にすら気配を感付かせる事なく近くまで忍び寄って来た、極めて高レベルの存在。
裏山とは言え木々に囲まれ、遮蔽物が山の様にある。
まして暗闇状態だ。
ここで追いかけるのは、賢明とは言えなかった。
「まぁ、向こうは私に用事があるんだろうし、嫌でもその内会うさ」
思い、私は寮に戻った。
……あ、いけね。
ルミ姫とフラウを忘れてた。
●○◎○●
「本当にごめんって!」
翌朝、私は二人に思いきり頭を下げていた。
いや~。
なんてか、寮に戻った時に気付いたんだけどさ?
「ごめんで済めば衛兵なんかいらないです!」
「そうだよ! まさか、夜通し檻の中に閉じ込めて置くなんて!」
……と、まぁ。
声高に騒ぐフラウと、その直後に叫んでたルミの台詞が全てを語っているわけで。
本当はすぐにでも裏山の手前にいた二人を解放するつもりだったんだけど、私も珍しく疲れてたのか? うっかり寮の自室に戻った辺りで居眠りしちゃってね。
ハッ! と気付いた時には、もう……朝になってたんだ。
参ったね~。
「いや、本当にごめん! 後で、ルミには何か奢るから! フラウには、私のとっておきのスキルを一つ教えるから許して!」
ともかく私は頭を下げる事しか出来なかった。
くそ……思えば、コイツら自業自得なんだけどなぁ。
「え? マジっすかリダ先生!」
「えええぇ! フラウだけずるい! 私にも教えなさいよぅ~!」
……うむ。
けど、これはこれで良いか。
次の若い世代が、私の教え子として、強く立派にみんなを守ってくれるかも知れないからな。
「よぉ~し! じゃ、二人に伝授してやる! けど、これはとっておきだからな? 生半可な覚悟で挑むと痛い目に逢うからな?」
「え? い、痛いの?」
「ルミさんは棄権します!」
根性ないけどな!!




