輝いた明日へ。ゴグゴグマの巨人【8】
まぁ、言いたい事は分かる。
謎の奇襲に遭った……と、ここまでは良い。
この状態で伝令が来たのなら、まだ迎え撃つと言う選択肢も当然として存在するだろう。
だが、これが『奇襲に遭って部隊が全滅しました』となれば、話は大きく変わってしまう。
正体不明、謎の存在が圧倒的な力で自軍を蹴散らして来たのだ。
このまま無策で突っ込んだのなら、余計な被害を被るだろうし、そんな危険がある状態に貴重な兵をぶつける訳には行かない。
兵士の数だって無限ではないし、何より自分達の土地に住む地元民なのだ。
いたずらに犠牲を出す事は出来ない。
まぁ、そう言う下策を好んでやる様な外道であるのなら、私は倒すのに良心を痛めないで済むから、気楽ではあるんだけどな?
そうなれば、だ?
「多分、みかんの予測なのですが、ここはしっかりと作戦会議を開いて、私達に対抗する手段を考えて来ると思うのですよ」
「なるほど」
それはそれで厄介な話だな。
「可能なら、相手に時間を与える事なく、このまま突入したい所ではあるのです」
「そうだな、余計な時間を与える事は、相手に作戦の時間を与えてしまう事になる訳だしな」
こっちは超少数精鋭的な形を取っている関係もあって、作戦を考えるにしても行動を取るにしてもかなりスピーディーに物事が進んで行く。
この利点を活かす為にも、敵に時間を与えてはいけないだろう。
……と、そんな事を考えていた頃だった。
「ふぃ……戻ったぞー」
軽く一息吐く感じの声音が、上からやって来た。
魔法の絨毯に乗っていたういういの声だった。
ういういは、魔法の絨毯を地面スレスレの所まで高度を落とした所で地面に足を着けてみせる。
「存外、弱かったぞ? 伝令兵。あれはなんだろうな? ちょっと肩透かしを喰らった気分だ」
「まぁ、ほら、一般的な兵と言いますか、早馬の扱いに長けた兵士なのですから、そこまで強い兵士ではなかったのかも知れないですよ」
「ああ、そうなるかもなぁ」
みかんの説明に、ういういはなんとなくの納得を声を吐き出していた。
「ああ、ついでに敗残兵なのかな? 十数騎位だったけど、ついでに倒しておいたぞ」
「……結局やられたのか」
あっけらかんと答えたういういの言葉を聞いて、私はちょっとだけ相手に同情した。
謎の奇襲を受けた上に、良く分からない有象無象に襲われた挙げ句、逃げた先には見習いながらも剣聖が待ち構えていて……果ては、そのまま全滅。
なんだか、哀れ過ぎて返す言葉もないよ。
「ほむ。そうなると、本陣へと逃げ帰った部隊は完全に全滅してしまった事になりますねぇ……多分、まだ本陣に情報が行ってないかもです」
「まぁ、それならそれでも問題はないんじゃないか?」
「そうですねぇ……逆に言えば、本陣へと直接強襲を掛けても良い訳ですし」
言ったみかんは、うーんと唸ってから両腕を組んで見せた。
「リダ様、みかんさん。今帰りました」
程なくして、再び上の方から声がやって来る。
ういういと同様に、早馬を走らせているだろう伝令兵を駆逐する役として魔法の絨毯に乗っていたユニクスが戻って来た模様だ。
ういういは本陣への伝令兵で、ユニクスは増援部隊への伝令兵を狙っていた訳なのだが、
「あ、ういういさんも戻っていましたか。只今戻りました」
穏やかな表情で言っている辺りから考えるに、目的はしっかりと達成した模様だ。
「その顔だと、ちゃんと作戦は成功した見たいだな?」
「はい! しっかりとリダ様好みの半殺し具合でとどめて置きました」
ユニクスは淑やかな笑みで、かなり殺伐とした台詞を平然と口にしていた。
どうでも良いけど、私好みの半殺しって何だよ……?
「ああ、序でに敗残兵の処理もして置きました。結果的に伝令されてしまうでしょうから」
ああ、こっちも似た様な末路を辿っていたのね。
奇襲を受けてからの有象無象が来て、そして逃げた先には勇者様がいた、と。
剣聖の卵が相手か、勇者が相手か?
前門の虎、後門の狼……とでも表現するべきだろうか?
……虎が良いか、狼が良いかの違いだ。
どっちにしても最悪である事に変わりはない。
そうなると、本陣にしても増援にしても……まだ先行隊が完全に全滅した事を知らないと言う事になる。
「ほむぅ……どう出るか、悩み所ですねぇ」
どの道、先行隊の全滅は遅かれ早かれ分かる事になるだろう。
本陣にせよ増援の部隊にせよ、どちらにしてもそこまで遠い場所にある訳ではない。
定期的に情報を交換する為に、各部隊から伝令の兵士が早馬を走らせて先行部隊にやって来る事になるだろう。
早ければ早朝にはバレてしまう可能性もある。
相手が小まめに情報交換をしていたとすれば、早朝には分かる筈だ。
全滅した先行部隊の惨状を目の当たりにするのだから。




