新しい架け橋【9】
「これから戦う相手の情報を何にも知らないで、作戦とかもないまま、無作為に突っ込む気だったのです?」
「……う」
目をミミズにしたまま、口だけを動かしていたみかんを前に、私は思わず口ごもる。
いや……だってさ?
「最初は私一人だけで突入しようとしていた訳だし……」
「そうであっても、敵情報くらいはちゃんと把握して置かないと~」
眉を思いきり釣り上げて言うみかんがいた。
いや、まぁ……そうだな。
「けど、そうは言うけど、やつらの情報とか分かるヤツが里にいるのか?」
「ここにいるです」
みかんはドヤ顔になって言ってた。
「……そう言う事になってるのか」
それなら、最初から言ってくれれば良い物を。
私が苦笑しながら思わず鼻頭の辺りをポリポリ掻いていた時、みかんが真剣な顔になって、その場にいた全員に向かって答えて見せた。
「敵は、先行隊・本陣・増援の三部隊になってるです。先行隊は約二千程度の部隊で、既に海岸付近でキャンプを立てています。つまり、いつでも攻撃を開始する事が出来る部隊ですね」
……ふむふむ。
この部隊が明後日には攻めて来る、最初の部隊になる訳だな。
「次に本陣ですが……これは、文字通り敵の本体を意味する部隊です。これは相手の集落があるゴク族の町を中心に駐屯している部隊で、恐らくここにゴクゴグマの巨人もいると思われるです」
私達にとって、ここを落とす事が出来たら目的達成だな。
「最後に別動隊となる増援部隊です。これはゴグマ族の集落があるゴグマの町を拠点としている部隊で、およそ三千程度の兵士が駐屯しています」
すると、最悪の場合はこの増援とも戦わないと行けない訳だが、上手に立ち回れば戦闘を回避する事だって出来るかも知れない相手って事になるのか。
なるべくなら、余計な戦闘は避けたい所ではあるな。
「そして、部隊が配置されている地図がこれです」
……凄いな。
そんな所まで調べていたのかよ。
「お前、何でも出来るよな……」
呆れと驚きと感心をごちゃ混ぜにする感じの顔になって、私はみかんへと答えていた。
「ふふん。この一週間とちょっとの時間……みかんやういういさんが、防御壁の手伝いをなぁ~んもしないで、外に出ていた成果がこれなのです」
「そう言えば、確かにいなかったな……」
まぁ、ちゃんと敵情視察をしてたから、それはそれで良いとは思うけど……確かに全然、顔を見なかった。
「もちろん、ちゃんと島にトラップを設置とかもしてたぞ?」
そこで、ういういが自分を擁護する形で言う。
つまり、本当にそれだけしかしてない訳ではなく、島の防御体制にも一役買っているんだぞと言いたいのかも知れない。
別にそこは疑ってはいないんだけどな?
「まぁ、そこはともかくです? まずはこの地図を見て下さい」
今いる四人に見やすい様に、みかんは地図を地面へと広げて見せた。
地図の内容はここら一帯の地図だ。
大きな島は、現在地。
その島から先にある完全なる陸地のエリアは大陸を意味している。
つまり、敵側のエリアだ。
大陸側の海岸沿いを見て行くと、複数のバッテンが描かれている。
ああ、これが先行隊がキャンプを張ってるエリアなのか。
「結構、広範囲にキャンプを張ってるんだな?」
「そりゃ、二千人も兵隊がいる訳ですからねぇ……下手なキャンプ場より規模が大きいかもです」
「なるほど、言われるとそうかもな」
「……で、この海岸から南に八時程度の方向……南南東と言うべきでしょうかね? ともかく、その先約十キロ程度の所に本陣があるです」
みかんは海岸沿いのキャンプから少し行った所にある、開けたエリアを指差して答えた。
「みかんらが先行隊に奇襲を掛けた場合、早馬の伝令兵が即座に動いて、本陣へと奇襲されている事を伝える筈です。山林地帯を通ると言う地形効果を考えると、伝令が本陣に届くのにおよそ30分程度掛かります」
まぁ、原っぱの直線を突っ切るのとは訳が違うからな。
山林地帯を掻い潜って進むとなれば……なんだかんだでその程度の時間が必要にはなるかも知れない。
「そして、本陣に情報が伝わり、本体からの応援部隊が駆けつけるのは、ここから更に一時間程度と予測出来るです」
「一時間? そんなに早いのか?」
これは少し驚いた。
何せ、この時間だ。
みんな寝てるだろう。
挙げ句、十キロと言う短い距離とは言え、山林地帯を巨大な部隊が移動して来る訳なのだから、本来なら相当な時間を必要とする筈なのだ。
「実際に時間を計った訳ではないのですが、みかんなりにシュミレートしてみると、おおむね一時間で到着します。予測部隊の人数はおよそ二千」
「短期決戦をしないと、海岸だけで残念な事になるな」
「そうです。ポイントはこっちが奇襲を掛けると言う事は、同時に里側の宣戦布告って意味になる事です」
「……そうか。すると、のんびりやっていると敵兵が増員された挙げ句……」
「そうです……島に上陸しようとするのです!」
最悪の事態だな……それは。




