新しい架け橋【4】
こちらは向こうを攻撃するのではなく、飽くまでも撃退すれば良いわけだから、数の上で圧倒的に不利であったとしても、上手に立ち回れば何とかなる可能性は十分あった。
……だが、劣勢である事に変わりはない。
「今日の所は、多少ハメを外しても大丈夫だとは思うんだけど、明日と言うか……これから先はハメを外す場面はないと思う」
ういういは、言ってから陽気な笑顔を私に見せて来た。
つまり、酒が飲めるチャンスは、もうこれが最後だぞと言っている。
……ぐ、くぅ……。
今にもういういの誘惑に誘われてしまいそうで怖い。
彼女が好意で言っているのは分かる。
そこらは、聞くまでもない。
けれど、だめだ。
「すまん。今日は遠慮しておくよ」
苦笑混じりに私は言う。
「まぁ、それならそれでも良いけど……後で、戦闘になってから禁断症状が出て、手を震わせるとかナシにしてくれよ?」
「私はアルコール中毒者かよっ!」
冗談めかした口調で言って来たういういに、私がソッコーで喚きを入れた時、
「え? 違ったのです?」
みかんが、割と本気でキョトンとなっていた。
……お前らなぁぁっ!
「違うしっっ! 別に手とか震えないし! 依存してても、ちょっと飲みたくなって暴れたくなるだけだしっ!」
「リダ様……失礼をご承知で述べるのですが、それはもう……十分にアルコール依存症かと」
私がしっかりと自分への弁護を述べていると、ユニクスがとっても残念そうに言いにくそうな顔をして、私へと助言混じりに答えて行った。
なんて事だ。
私に味方がいないとは……。
私は以前、みかんの親でもある宇宙意思から『友愛』のスキルを貰っていた、特殊な存在なんだけどなぁ……。
そ、そうかっ!
そこで私は、一つの答えを導き出した。
今、現状で……飲んべえがいない!
みかんは酒を多少は飲むが、そこまで好きではない。
ういういもみかんと以下同文。
フラウはそもそも飲まないし、ユニクスも学生と言う現状を考慮して飲まない様にしている。
ただ、私が知る限りでユニクスは酒に強い。
……だが、酒が強い人間だからと言って、必ずしも酒が好きなのかと言えば、それは別問題だ。
酒は強いし、飲む気になれば尋常ではなく飲めたりもするけれど、根本的にお酒が好きではないから飲まない……と言う、私からすれば理解不能な人種もいるのだ。
予測に過ぎないが、それがユニクスなのではないかと、私は予測している。
まぁ、本当に予測でしかないのだが。
……うん?
そう言えば、だ。
「お前らも飲まないのか?」
私はみかんとういういの二人に軽く尋ねた。
それは、何気ない質問に過ぎなかった。
だが、私の質問は妙にクリティカルヒットした質問だったのか?
「お、およ? いや~。みかんさんはお酒が苦手ですから」
「そ、そうだな! 私も実はそこまで好きじゃないって言うかな?」
二人は不自然に慌てて見せる。
……?
何だろう? 妙に気になる。
私の問いが、何にクリティカルヒットしたのかは、今の所不明であったのだが……どうやら、思いがけない何かを堀り当ててしまったかの様に感じた。
「ほうほう。それで? お前らは何を隠してるんだ?」
「……あはは~」
怪訝な表情になって言う私に、みかんは笑っていた。
もう、完全に誤魔化し笑いで済まそうとしていた。
案外、セコい真似をするなぁ……。
他方のういういは、ちょっとだけ冗談めいた声音になって、
「ここで言っても良いのか?」
私にそうとだけ言って見せる。
やおら陽気で冗談めいた、砕けた声音を発していたが……目は笑っていない。
むしろ、真剣その物と表現する事が出来た。
……そして。
「いや、聞かないで置くよ……なんかえげつない話をして来そうだし」
私はやんわりと明後日な台詞を敢えて口にした上で、そうと声を返した。
「……ふふ」
他方……その時、ユニクスが軽く笑っていた。
含み笑いにも似た笑いをして見せるその裏には……まぁ、なんてか聞かないで置こう。
「みなさん、お揃いでしたか」
穏和に穏和を掛け合わせたかの様な声が、私達の元にやって来た。
アウロス族長の声だ。
この数日間で、一緒に防御壁の作業をした事もあってか、今では私達にもしっかりと心を開いてくれる様になった。
ここは嬉しい限りでもあるな。
「あら、族長。おこんばんちゃ~」
それはみかんも同じで、今では気軽に挨拶をするだけの仲になっていた。
当然、ういういも右ならえだ。
「こんばんわ族長。ここからが勝負だな」
友好的な雰囲気を作りつつ、ういういは族長に朗らかな笑みを作った。




