新しい架け橋【3】
この様な経緯を経て、里の防備は急速に堅牢な物へと進化して行く。
そして、結果的にこの里を完全に纏める存在となったアウロス族長もまた、他の巨人と一緒になって防御壁建設に汗を流していた。
いやはや、大した物だと思う。
本当なら、自分の屋敷でドンと構えているだけで良い筈なのに、現場の作業員と全く同じ視点で共に労働の汗を流していたのだから。
早々簡単に出来る物ではないと、思わず感心してしまった。
アウロスさん曰く『今はみんなが一丸となって防御壁建設を進めているので、族長としての仕事は一緒になって作業をする事』らしく、爽やかな笑みを私に振り撒いていた。
……ちょっと見惚れてしまった。
良い男なんだよなぁ……アウロスさん。
見た目も中身も男前なんだから、もう非の打ち所がない。
こんな男に告白なんかされたらイチコロなんだろうなぁ……まぁ、私には夢物語レベルな話なんだが。
………。
まぁ、そこは良しだ。
……と、この様な感じで、各々がそれぞれの役割を担って里の防備を固めて行くのだ。
当初、十日では時間が足りないと思われていた防御壁の建設だが……終わって見れば、わずか一週間程度でほぼ全ての作業を終了させて行く。
やっぱり、みんなの力ってのは偉大だなと思う。
一人より二人、二人より三人。
味方は多ければ多い程良い。
絆と団結心こそが、何よりのパワーになるのだから。
そして、それは人間だけではなく他の種族や生き物にも言える事だと思う。
全ての生きとし生ける者達との共存。
本当の意味での世界共存。
その第一歩とも言える巨人達との新しい架け橋は、こうして順調に築かれて行くのだった。
▲○◎○▲
時間に余裕が出来たと言う事もあってか? 防御壁の完成を祝う落成式が行われた。
当然、当初の予定では、こんな晩餐を開く余裕が時間的にない筈だった為、急遽開催された細やかな式典だ。
しかしながら、相手のゴク族とゴグマ族が攻めて来る様子もない為、周囲は穏和なムードが漂っている。
ただ、いつ戦闘になるか分からない段階にまで迫って来ている事も考慮して、アルコールを口にする事だけは避けておいた。
いざ戦闘になった時に酔い潰れてしまったいたとするのなら……当たり前だけど、話にならないからだ。
「リ、リダ様! お、お酒は嗜まないのですか!」
敢えて酒の類いを口にしなかった私を見て、ユニクスは慄然となった。
……凄いシリアスな顔になって固まっていた。
真剣な顔で言うんじゃないよ。
恐ろしく失礼なヤツだな……。
「私だって、分をわきまえる時だってあるんだよ……ったく、そこまで驚く事でもないだろうに」
私がぼやき口調でそう答えると、
「えええええぇぇぇぇっ! リダがお酒飲まないとか! それ、天変地異の前触れじゃなくて?」
違う角度で、やっぱり失礼なヤツが大仰に驚いている姿があった。
……フラウだ。
「リ、リダ……そう言う気持ち悪い事はやめてよ……縁起でもない」
「私が酒を飲まない事は縁起悪いのかよ……」
本気で言っていたフラウに、私はコブシをギュッと握りしめてほやく。
コイツら……揃いも揃って、私の事を何だと思ってるんだよ。
「おふぅ……リダが目前のお酒飲まないとは、驚愕の新事実です~」
……ここにもいたよ。
少し間を置いた所で、みかんがやっぱり驚いていた。
だから、私だってそう言う時があると言いたいんだよ、真面目にっ!
「リダ、別に今日は大丈夫だぞ? ついさっきまで、みかんと島の向こうへと偵察しに行って来たんだけど、ヤツらが今日攻めて来る可能性はゼロに近いな」
みかんの隣に立っていたういういが、小粋な笑みをやんわり作って答えた。
しかし、そこで真剣な顔になって見せる。
「……ただ、今日ではないにせよ、確実に攻めて来る事な。向こうも向こうで着々と攻撃体制を整えてるって感じだった」
「……そうか」
ういういの話を聞いて、私も真顔になった。
「そうですねぇ……みかんの見立てでは、軍勢はおよそ一万ってトコです」
「一万か……」
こりゃまた、かなりの数だ。
余談だが、こちらの戦力は……数にしておよそ三千。
島の中心となる里の軍勢が約二千程度なのだが、それとは別個で海岸沿いにある小さな漁師の集落があって、この勢力を足すと約三千となる。
今回は総力戦となるし、漁村の住民も同じ聖地に住む巨人であった為、比較的安全になるだろう里への避難も兼ねて、一時的に里へと集合している。
結果的に一致団結する形を取っている訳となるのだが、それでも数の上では大きな差が生まれていた。




