新しい架け橋【1】
翌日から、私達の新しい課題に向けての作業が始まった。
「フラウ、無理はしなくても良いからな?」
「だ、大丈……夫……はぁはぁ……」
気遣うパラスを前に、木材や石材が入った荷車を精一杯押しているフラウがいた。
普段から肉体労働とは無縁の生活をして来たフラウにとっては、かなり過酷な状況だったに違いない。
他方、荷車を引いているパラスの方は、汗こそかいている物の、そこまで苦しい表情を作ってはいない。
何なら、少し余裕が見受けられる。
ここらは巨人だからと言う所も加味されているのだろうか?
まぁ、巨人は根本的に人間よりも腕力の高いヤツが多いからな。
「私だって……この里にいるみんなの為に、なにかして上げたいんだもの……はぁはぁ」
「そうか……ありがとうな」
「……え?」
必死で荷車を押していたフラウに、パラスは素直な感謝の気持ちを口にしていた。
けれど、フラウはそれを額面通りには受け取らなかったのだろう。
思わず赤面状態になり、無意識に荷車から手を離していた。
その瞬間、パラスに荷車の過重がグンッ! と掛かる。
……ここが平地でよかったな。
坂道だったら、今ので転げ落ちる羽目になったかもだぞ。
「無理するなとは言ったけど……い、行きなり手を離さないでくれ! 今のは少し焦ったぞ!」
「ご、ごめんなさいっ!」
やや注意する形で言うパラスに、フラウはあたふたしながら謝って見せたのだった。
……ところで、だ?
「私には何も言わないのか?」
ちょっとだけ不機嫌な顔になる私がいた。
今、私が歩いていたそこは、それなりに開けた街道になっていたんだが、その街道をもう一台の荷車を引く形で並んでいた訳なんだが……。
「……何を言うんだ?」
パラスは不思議そうな顔になっていた。
……いや、分からないか?
「お前らは二人で引いているが、私は一人なんだぞ?」
「そうだな」
「お前らの荷物と私が運んでいるヤツ、どっちが重いと思う?」
「……もちろん、お前だ」
そこだよっ!
さっきから、フラウにはちゃんと気遣いをみせているパラスなんだが、私にはその片鱗も見せて来ない!
「私だってか弱い女の子なんだぞ? フラウと同類なんだぞ? 扱いが月とスッポン過ぎて泣けるんだが?」
「………」
非難の言葉しか出て来ない私に、パラスは眉間に皺を寄せた。
その顔は言っている。
「誰がか弱いって? ふざけんな怪力女」
「言葉にまで出しやがったっ!」
私はガーン! となる。
そ、そりゃ……さぁ?
確かに私は、ちょっとだけ人より力があるとは思う?
思うんだけどさぁ?
「もうちょっと、私にも優しい言葉を掛けてくれても良いんじゃないか?」
「そうか……わかった。頑張れ」
「それだけかいっ!」
物凄く素っ気なく言って来たパラスに、私は思わずツッコミの言葉を叫んでしまった。
……と、まぁ。
いきなり茶番から入ってしまったのだが、里に防御壁を建設する作業は順調に進んでいた。
余り時間がない為、そこまで大掛かりな物を作る事は出来ないのだが、里の巨人が総出で里の中心地に当たる半径一キロ程度のエリアを土を石材で固めた防壁を作っていた。
資材の運搬は主に私が受け持っている。
荷車を列車の要領で連結させ、一周で十五台程度の荷車を動かしていた。
ここには、みかんの魔法も付与されている。
私には出来ない魔法なのだが、荷車に魔法を付与させる事で、カーブやクランクがあってもその通りにしっかり曲がってくれると言う、とっても不思議な魔法だ。
これのお陰で、特に線路がなくても後続の荷車はちゃんと前の荷車と同じ方向で曲がってくれる。
私は、自分で持っている荷車の方向転換さえしていれば問題ないと言う事になる。
この調子で、荷車に意思を持たせてくれる魔法を掛けてくれればもっと楽になる様な気がするんだがなぁ……?
ふと、そんな事を考える私がいたのだが、みかんが言うに『そんな便利な魔法はない』との事。
みかんなら、そう言う魔法を使えそうな気がするんだが……まぁ、ないと言う事にしておいた。
正直に言うと、私はあまり器用な人間ではない。
建設に当たって、手伝いをしたい所ではあるんだが、どこをどう手伝えば良いのか分からない私がいた。
簡素に言うのなら、運搬作業くらいしか、まともに手伝う役がなかったのだ。
だからと言うのも変だけど、この仕事が魔法ですべてを賄えてしまうと、私の役割はみんなを応援する事位しかなくなってしまうんだよなぁ……これが。
そう考えれば、まだ自分で荷車を押している方がマシなのかも知れない。




